事例分析から見た集約放牧のための圃場レイアウト(指導参考事項)
農研機構・北海道農研・総合研究部・総合研究第3チーム 篠田 満 |
集約放牧地のレイアウトでは飲水施設および庇陰林が十分な事例は少なく、飲水・庇陰・補助飼料採食で通路の使用頻度が高まっている。効率的なレイアウトを行うために、現状のレイアウトの事例を参考にしてレイアウト作成のための留意点を示した。
1.試験目的
放牧を導入するに当たり、放牧地や牛舎、通路、飲水場などの配置(レイアウト)は、省力管理と草地の効率的利用に重要な要素となる。そこで、主に十勝地域を対象に、放牧している酪農家の放牧地、牛舎、通路、飲水場などのレイアウトの実態の把握と改善点の提示のため本調査を実施した。
2.試験方法
放牧している酪農家(主に十勝)の放牧地、牛舎、通路、飲水場などの配置を調査した。また、同時に飼養状況、放牧管理方法について聞き取り調査した。主として小牧区を固定し毎日輪換放牧している酪農家を対象としたが、一部、牧区を固定していないストリップ放牧の酪農家も含めた。いずれも放牧最盛期には昼夜放牧もしくは日中放牧を行っている。調査数は39例で十勝南部地区が18例と約半分を占めている
牧区等の配置は、航空写真を利用して調査酪農家に確認するか、もしくは、GPSで牧区の位置を記録しパソコン上で地図に写す方法で調査した。
3.試験成績
1)調査農家の放牧地のレイアウトの実態を以下に示した。
(1)表1に調査農家の概要を示した。平均で1頭あたりの放牧専用地面積は0.24ha、兼用地も含めた面積で0.35haである。放牧専用地面積が概ね1頭あたり0.2ha以下と少ない酪農家では、放牧時間中も牧区の出入り口を開放し、搾乳牛にパドックで自由にサイレージや乾草を採食させている事例が多い。
(2)牛舎と放牧地間の移動の際に一般道路を通行する事例は約3分の1と多い。また、通行させている頭数は25頭〜70頭である。
(3)放牧地の通路では牛の通行が多い場所は泥濘化しやすい。安価な対策としての通路幅の拡大、側溝の掘削、泥濘化のひどい時期の草地内通行(バイパス)などが行われている。
表1 調査農家の概要
2 放牧レイアウト作成の留意点
4)水槽を配置して、牛がほぼすべての牧区で水を飲めるようにしている例は12例と少ない。また、パドックだけに配置(10例)、パドックと通路への複数個の配置(11例)がある。放牧頭数がおおむね70頭以上では各牧区に配置している。水槽が少ないと牛は飲水場所と放牧地を往復することになる。
(5)各牧区に庇陰林を配置している例は39例中1例と少ない。一方、庇陰場所が少ない事例は10例と比較的多い。
2)現状のレイアウト事例を参照にして、小牧区利用によるレイアウト作成のための留意点を表2に示した。
図1はレイアウトの改善例を示したものである。以前は牧区が細長く(約50m×300m)採食ムラが問題で、また、通路が日陰で放牧地より低かったので、現在は通路を中央にして、牧区の縦横の差を小さくして2列とする配置としている。一方、このレイアウトでは北側の牧区で日陰が無い。
図1 レイアウトの変更例
(上:改善前、下:現在)
4.試験結果および考察
夏以降は放牧草の成長が低下するので、放牧主体で飼養するためには採草後に利用する兼用地は専用地と同程度の面積が必要なことが報告されている。本調査の1頭あたり放牧地面積から、春と夏〜秋では飼養管理を変えるなどの配慮が必要な事例が多いことがわかる。また、実態として飲水施設および庇陰林が不十分な事例が多い。水槽が不備であると、放牧牛は放牧地と水槽の設置場所(事例によってはパドックのみ)を往復することになるので、飲水量確保とともの放牧地や通路の管理の面からも十分な水槽の配置が必要である。
既存の成績と事例調査をもとにレイアウト作成のための留意点を示した。実際には図1の採食ムラ解消を優先させると庇陰場所が確保できないといったような競合する場合は、重要度に応じて選択する必要がある。
今後、今回の事例調査をもとにした留意点に、放牧牛の行動の調査データを追加してより実用的なレイアウト作成の手引きを作る必要がある。
5.普及指導上の注意事項
必要な牧区数と1牧区あたりの面積については、放牧地の牧草生産力が重要である。生産力が低い放牧地では、1牧区あたりの面積を広くする必要があるが、表2の留意点では便宜的に標準的な放牧地を想定して、1牧区の面積を、1頭あたり2a×頭数としている。
なお、今回は十勝地方の平坦な地域での調査が多かったことから、起伏のある場合の要因について検討が不十分である。