成績概要書(2005年1月作成)
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課題分類:
研究課題:黒毛和種牛の初乳成分と子牛への初乳給与法
      (肉用子牛における下痢予防のための衛生管理技術)
担当部署:畜試 畜産工学部 感染予防科
           家畜生産部 育種科 肉牛飼養科
担当者名:
協力分担:なし
予算区分:道費
研究期間:2000〜2003年度(平成12〜15年度)
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1.目的
 子牛の疾病予防には、出生直後の適切な初乳給与により子牛へ十分な免疫を賦与することが重要であるが、特に黒毛和種牛では初乳についての情報は少なく、子牛への初乳給与法は十分に確立されていない。本課題では黒毛和種牛について、初乳成分と子牛への初乳給与法について検討し、黒毛和種子牛への初乳給与プログラムを提示した。

2.方法
1)黒毛和種牛の初乳成分
  黒毛和種牛初乳の乳量・乳成分を調査し、ホルスタイン種牛の初乳や代用乳と比較した。
2)黒毛和種子牛への初乳給与法と免疫グロブリンG1 (IgG1) の移行
  黒毛和種子牛の初乳摂取量を調査し、初乳給与までの時間や給与方法の違いが子牛へのIgG1移行や血液成分に及ぼす影響を検討した。
3)黒毛和種子牛への初乳給与プログラム
 黒毛和種子牛生産農場における初乳給与プログラムと子牛へのIgG1移行の実態を調査し、黒毛和種子牛への初乳給与プログラムを作成した。

3.成果の概要
1)黒毛和種牛の初乳成分
 黒毛和種牛の初乳はホルスタイン牛と比較して乳量は少ないがIgG1濃度が高く、子牛への免疫賦与の効果が高いことが示唆された(表1)。また、黒毛和種牛とホルスタイン種牛の初乳中脂肪酸組成に差はなかったが、代用乳の脂肪酸組成は製品によって異なっていた(表2)。
2)黒毛和種子牛への初乳給与法と子牛へのIgG1 の移行
 黒毛和種子牛は生時体重の約10%の初乳を自力哺乳できることが示された。出生後6時間以内にホルスタイン種牛凍結初乳1.5リットルを子牛に給与すると、子牛血中へ移行する免疫グロブリン量やIgG1の吸収率、離乳までの疾病発生状況に差がなかった(表3)。また、哺乳びんによる自力哺乳でもストマックチューブによる強制哺乳でも、子牛血中へのIgG1移行時間、血清中IgG1濃度、IgG1吸収率およびエネルギー代謝に関連した血液成分は変わらなかった。これらのことから、子牛への初乳給与は生後6時間以内であれば、IgG1の移行は良好である。
3)黒毛和種子牛への初乳給与プログラム
 初乳給与プログラムと子牛へのIgG1移行の関係は、黒毛和種牛の母乳を自然哺乳した場合の子牛血清中IgG1濃度が最も高く、初乳製剤だけではIgG1濃度は低く、黒毛和種牛の母乳を給与することにより、子牛へのIgG移行量が著しく上昇することが示された。黒毛和種子牛への初乳給与プログラムは、少なくとも生後6時間、できれば24時間は母牛から自然哺乳させ、乳量が少ないと思われるときは、ホルスタイン種牛の凍結初乳または初乳製剤を追加給与する。ET子牛の場合は、生後6時間以内にホルスタイン初乳を体重の10%を目安に2〜3リットル給与するとよいと考えられた。
 以上の成績より、黒毛和種牛の初乳成分と子牛への初乳給与量と給与までの時間などが明らかになり、黒毛和種子牛への初乳給与プログラムを提示した(図1、図2)。

表1  黒毛和種牛とホルスタイン種牛の初乳成分の比較
  黒毛和種1) ホルスタイン種2)
乳量 (kg) 1.3±0.7 9.9±4.5
乳脂肪 (%) 5.1±2.4 6.2±2.4
無脂固形分 (%) 19.6±1.8 17.1±2.9
蛋白質 (%) 16.7±2.0 13.7±3.4
IgG1 (mg/ml) 160.1±52.2 73.1±27.9
乳糖 (%) 2.0±0.5 2.4±0.7
1) 黒毛和種 経産牛14頭 2) ホルスタイン種 経産牛35頭

表2 黒毛和種牛とホルスタイン種牛の生乳および代用乳の脂肪酸組成(%)

表3  生後2日目の子牛血清中免疫グロブリン濃度の比較
処理1) IgG1摂取量
(g)
IgG1
(mg/ml)
IgG1吸収率2)
(%)
IgG2
(mg/ml)
IgA
(mg/ml)
IgM
(mg/ml)
A (1h) n=5 91.9±29.5 12.0±5.5 29.9±8.7 1.9±0.8 1.5±1.1 1.3±0.7
B (3h) n=5 110.0±33.9 12.1±3.2 27.8±5.1 2.1±0.3 1.4±0.5 1.1±0.4
C (6h) n=5 102.2±28.7 15.1±6.8 34.2±12.2 2.3±1.1 1.6±1.1 1.0±0.5
1)初乳給与までの時間はA群 生後1時間、B群 生後3時間、C群 生後6時間とした
2)IgG1吸収率(%)=子牛血清中IgG1濃度(mg/ml) ×総血清量(L)÷IgG1摂取量(g)×100


図1 黒毛和種子牛への初乳給与プログラム     図2 黒毛和種ET子牛への初乳給与プログラム

4.成果の活用面と留意点
1)黒毛和種子牛への初乳給与プログラムは生産農場で活用できる。
2)初乳を介して子牛に感染する可能性のある病原体(ヨーネ菌、牛白血病ウイルスなど)があるため、母牛の健康状態に注意する。

5.残された問題とその対応
1)ホルスタイン種子牛と比較して、より高い血清中IgG1濃度が必要と推測される黒毛和種子牛についての検証。
2)初乳中の免疫担当細胞成分や免疫活性物質と子牛の細胞性免疫機能との関連。