成績概要書(2005年1月作成)
———————————————————————————————————————
課題分類:
研究課題:BSE疑似患畜の経過観察と脳内接種法の確立
       (疑似患畜を用いた発症前のプリオン動態)
担当部署:道立畜試 畜産工学部 遺伝子工学科 感染予防科 代謝生理科
協力分担:
予算区分:外部資金
研究期間:2002〜2004年度(平成14〜16年度)
———————————————————————————————————————
1.目的
 2004年12月現在、国内において14頭の牛海綿状脳症(BSE)患畜が確認されているが、生前に発症を確認された例はない。BSEの病態解析や診断法の開発などBSE研究を推進する上で、生きたBSE感染牛を確保することは急務である。本課題では、BSEの生前診断の可能性を検討するため、BSEの発症を想定して、BSE発生農場から疑似患畜を導入し、疑似患畜の臨床症状の観察や生体材料からのプリオンあるいはその他指標になると考えられる生化学的項目を解析した。さらに、BSE実験感染牛作出のための脳内接種法による牛への感染実験方法を検討した。

2.方法
1) BSE疑似患畜の経過観察
2) BSE感染実験のための脳内接種法の確立
(1) 子牛の頭部標本を用いた接種部位の検討
(2) 脳内接種の影響と脳乳剤の脳内分布
(3) 子牛へのBSE感染脳乳剤脳内接種法プロトコルの作成

3.成果の概要
1) BSE疑似患畜の経過観察
道内のBSE発生農場2戸から疑似患畜18頭を導入した。導入した疑似患畜は、いずれの牛においてもBSE発症を疑う異常な臨床症状は示さなかった。また、死亡あるいは鑑定殺を行った16頭は、ELISA法による延髄のBSE検査で陰性であった。ウエスタンブロット法による尿の解析では、すべての検体でプリオンは検出されなかった。血液および血清生化学分析は概ね正常な値で推移した(表1)。二次元電気泳動による血漿中蛋白質の解析は観察途中から出現するスポットが存在した。また、脳脊髄液の生化学検査および脳脊髄液S-100B蛋白質濃度においては一時的な変化を示す個体があったが、概ね安定して推移し、中枢神経障害を疑う所見は無かった(図1)。
2) BSE感染実験のための脳内接種法の確立
(1) 子牛の頭部標本を用い、接種方法を検討した。前頭骨はピンドリルにより容易に貫通することができ、また角間隆起から1cm鼻側、正中線から2cm右側の点はカテラン針を用いての脳幹部への穿刺が可能であった。
(2) 検討した穿刺点により、子牛へ脳乳剤を接種した。脳乳剤接種後3〜4時間の観察においては、異常な臨床所見は無かった。病理解剖およびCTスキャンによる頭蓋腔内の観察においては、接種した脳乳剤のほとんどは脳実質に留まらず、脳脊髄中に分散し、各脳室および中脳水道に分布することが明らかとなった(図2)。本法による子牛への脳内接種はBSE感染脳乳剤をBSE病変好発部位へ到達しやすくし、高い感染性が期待された。
(3) これらの知見を体系化し、子牛へのBSE感染脳乳剤脳内接種法プロトコルを作成した(表3)。
 以上のように、本試験で導入した疑似患畜は、BSEを発症せず、脳組織におけるプリオンの蓄積も無かった。また、牛へのBSE感染試験を行うための脳内接種方法を確立し、プロトコルを作成した。なお、本年より開始した動物衛生研究所との共同研究で、この脳内接種法プロトコルを用いたBSE感染試験を子牛21頭に行い、経過を観察中である。


図1.脳脊髄液中S-100B濃度の変化


図2.着色脳乳剤の分布(矢印:染色部位)


図3.ピンドリルによる前頭骨の貫通

4.成果の活用面と留意点
 牛への脳内接種によるBSE感染実験は、動物バイオセーフティ基準(ABSL)2を必要とする。また、BSE感染脳乳剤の調整にはバイオセーフティ基準3実験室、感染実験に用いた動物の飼養にはABSL1施設を必要とする。

5.残された問題点とその対応
 BSEの感染および発症機序、感染因子の特性など未だ不明な点が多いことから、本疾病の病態解析や診断法の開発を行う。