成績概要書(2005年1月作成)
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研究課題:牧草の新しいTDN推定式の検証
      (予算課題名 低コスト生産のための乳牛飼料設計支援システムの確立)
担当部署:畜試 環境草地部 草地飼料科
協力分担:
予算区分:道費
研究期間 2000-2003年度(平成12〜15年度)
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1. 目的
 飼料成分を栄養的に均一な分画に分け、それぞれの理論的な可消化量を推定して加算することによるTDN推定式(NRC01式)がアメリカの乳牛飼養標準2001年版において採用された。道内においても平成16年度までに分析項目が整備され、NRC01式を普及現場で利用できるようになったが、これまで採用されていた酵素分析分画からの回帰式によるTDN推定値との間にギャップがあり、生産現場で混乱が生じつつある。そこで、NRC01式の道内産自給飼料への適合度を検証することを目的として検討を行った。

2. 方法
 1)TDN推定値のinvivo値との比較
NRC01式の精度をめん羊による消化試験データを使って検証する。比較対照として現在道内の飼料分析センターで利用されている式(現行式と略記)を用いた。
 2)近赤外分析値に基づくTDN推定値の精度
近赤外分析による成分推定値を用いたときのNRC01式による推定精度を検証した。

3. 結果の概要
 1-1) チモシーでは現行の推定式と比較して決定係数がやや大きく、バイアスがやや小さかったことから、やや精度が高いと考えられた(表1)。
 1-2) オーチャードグラスではバイアスが大きく、決定係数が低く、推定精度が低かった(表1)。
 1-3) マメ科草では決定係数が現行マメ科式よりやや低かったものの、バイアスが無視できる程度に小さかった(表1)。
 1-4) チモシーとマメ科を込みにした場合では、決定係数が現行イネ科・マメ科式の組み合わせと同程度で、推定値と実測値の関係に草種間でずれが認められなかった。このことからチモシー・マメ科混播草においても推定精度が高いと考えられた(表1)。
 1-5) 全草種込みでは現行の推定式と比較して決定係数がやや高く、バイアスが小さく同等以上の精度を有していた(表1)。
 2-1) 近赤外分析による成分推定値を用いた場合にも化学分析値に基づく値をほぼ実用的精度で再現できた。また、説明変数の一部(NDF-NDICP、ADL)に酵素分析分画からの回帰式を代入した場合にも精度の低下は僅かであり、実用的な精度を有していた(表2)。代入する式および方法を表3に示した。
 2-2) 道内で生産されたチモシー主体牧草においてNRC01式による推定値は現行式による値より約4ポイント程度高くなった(図1)。

 以上、NRC01式は現行の式よりチモシー主体牧草におけるTDN推定精度が高く、近赤外分析による成分推定値を用いた場合にも実用的な精度を維持していた。このことから、道内におけるチモシー主体牧草のTDN推定式に利用できることが認められた。

表1 TDN推定式のめん羊 in vivo実測値に対する精度比較

表2 NRC01式における化学分析値から算出したTDN推定値に対する近赤外分析(NIRS)値から算出したTDN推定値の精度(牧草サイレージn=46)
項 目 全Lab1) 推定値①2) 推定値②3) 推定値③4)
最大 64.7 66.5 66.2 64.7
最小 47.7 51.8 51.5 53.3
平均 59.5 60 60.1 60.5
R2   0.73 0.73 0.71
誤差標準偏差   1.88 1.86 1.93
誤差平均値   0.61 0.65 1.11
1) 全ての説明変数を化学分析により分析。
2) 粗灰分を除く全ての説明変数をNIRSで推定。
3) NDF-NDICPは酵素分析値から回帰式により推定。粗灰分以外の項目は全てNIRSで推定。
4) NDF-NDICPおよびADLを酵素分析分画からの回帰式で推定。粗灰分以外の項目は全てNIRSで推定。

表3 検証したTDN推定式およびその変形(NRC01式)
NRC01式 TDNm = tdNFC + tdCP + (tdFA×2.25) + tdNDF - 7             
 tdNFC = 0.98×{100 -[(NDF - NDICP)+ CP + EE + Ash]}
 tdCP = CP×exp( -1.2×ADICP/CP)
 tdFA =(EE - 1) ただしEE<1のとき、FA = 0
 tdNDF = 0.75×[(NDF - NDICP) - ADL]×〔1 - [ADL/(NDF - NDICP)]0.667〕
td:truly digestible  m : maintenance
下線部分に代入する式 NDF-NDICP = 1.075×(OCW - ADICP) - 9.11 (牧草サイレージn=150,R2=0.97)
ADL  = 0.1168×EXP(0.0419×Ob割合(%OCW))( 〃  , R2=0.55)1)
1) 平成15年度成績「飼料設計のための新飼料成分表」より

4. 成果の活用面と留意点
1) 反芻家畜の飼養設計および牧草の栄養価評価に利用できる。
2) NRC01式ではチモシー主体草において、現行のTDN推定値より約4ポイント高くなる。
3) NRC01式ではオーチャードグラスに対して適合度が低い。
4) NRC01式では放牧草に対しては過小評価の可能性がある。

5. 残された問題とその対応
1) 青刈り牧草およびマメ科用NDICP、ADL検量線の作成
2) 飼料用トウモロコシでの検証