オーチャードグラス新品種候補「北海29号」(普及奨励事項)
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構北海道農業研究センター作物開発部イネ科牧草育種研究室 天北農業試験場研究部牧草飼料科 畜産試験場環境草地部草地飼料科 北見農業試験場作物研究部牧草科 根釧農業試験場研究部作物科 家畜改良センター十勝牧場 同新冠牧場 執筆担当者 北海道農業研究センター 眞田康治 |
オーチャードグラスの早生品種は、最も早く1番草を収穫できる利点がある。「北海29号」は、春と秋の収量性および越冬性に優れ、早春から晩秋まで利用できる。3年目収量が高く、年次による収量の落ち込みが少ない。「北海29号」を「ワセミドリ」に置き換えて普及することにより、採草および放牧用品種として自給飼料の増産に貢献できる。
1 試験目的
越冬性に優れ多収なオーチャードグラスの早生品種を育成する。
2 試験方法
(1) 育種方法
5栄養系の組み合わせによる合成品種法。
(2) 育成経過
1992年より49品種・系統3920個体で構成された基礎集団を年10回刈処理して、1995年に再生に優れた225個体を選抜した。225栄養系を多回刈と少回刈処理をして、1997年に再生と各時期の草勢に優れた5栄養系を選抜し多交配した。1999年に合成2代を採種し「北海29号」を付した。2002年より系統適応性、特性検定、地域適応性の各試験に供試した。「北海29号」の構成栄養系は、「北育50号」から3栄養系、「北育45号」および「フロンティア」から各1栄養系である。
3 試験成績
標準品種「ワセミドリ」と比較した特性は、下記のとおりである。
(1) 出穂始めは全場所平均で「ワセミドリ」より1日遅く、“早生”に属する。
(2) 収量性は同程度かやや優れる。1番草収量はやや優れ、4番草収量は優れる(図1)。3年目収量は優れ、3年目の収量の低下は小さい(図2)。
(3) 越冬性と早春の草勢は優れる。耐寒性は“やや強”、耐病性(雪腐大粒菌核病および雪腐黒色小粒菌核病)は“強”で優れる。
(4) 多回刈での収量はやや優れる(表1)。
(5) すじ葉枯病および葉枯れ性病害罹病程度は同程度である。黒さび病罹病程度は高い。
(6) マメ科率(アカクローバ)は年平均約20%を維持し、混播適性は「ワセミドリ」と同程度である(表1)。
(7) 放牧特性検定における利用率は同程度で、放牧適性は同程度である。
(8) 耐倒伏性、飼料成分、採種性は同程度で、形態的特性に大差がない。
(9) 特記すべき特徴
「北海29号」は早生に属し、3年目収量および春と秋の収量が優れる。越冬性と早春の草勢が優れる。採草および放牧に利用できる。
注) 1) 2、3年目の合計乾物収量(kg/a)、( )はワセミドリ比(%)。
2) 生育特性の( )内は特性調査成績による。
3) 1:極不良-9:極良、9場所2か年の平均。
4) 9場所2か年の平均。
5) 根釧農試の耐寒性特性検定試験。
6) 1:無または微-9:極甚、6場所の平均。
7) 北農研の3か年合計収量(kg/a)、( )はワセミドリ比(%)。
8) 北農研のシロクローバ(「ソーニャ」)混播の3か年合計収量(kg/a)、( )はワセミドリ比(%)。
9) 1:無-9:極甚。
10)アカクローバ(「ホクセキ」)混播(北農研)。
11)オーチャードグラスとアカクローバの2か年合計収量(kg/a)、( )はワセミドリ比(%)。
12)乾物の比率、2か年の平均。
13)道立畜試の放牧特性検定試験、利用率は3年目の年平均、被度は3年目の最終放牧後の調査。
14)北農研の2003年少回刈番草別平均。
15)北農研の2か年の平均。
16)9場所の平均。
17) 1:直立-9:ほふく,北農研の個体植試験。
4 試験結果及び考察
オーチャードグラスは、再生力と競合力に優れ北海道西部の多雪地帯を中心に栽培されている。オーチャードグラスの早生品種は、最も早く1番草を収穫できるため、利用期間が長い利点がある。既存の早生品種「ワセミドリ」は越冬性がやや劣るために、安定した飼料生産のためには越冬性を改良する必要がある。
早生に属する「北海29号」は、「ワセミドリ」に比べて収量性は同程度かやや優れ、越冬性は優れる。また、秋季の収量が高く、従来の耐寒性品種の欠点である夏季以降の収量性が改良されている。そのため、利用期間が「ワセミドリ」より長い。放牧適性は「ワセミドリ」と同程度であるので、採草と放牧両方に利用できる。また、年次による収量の落ち込みが少ないので、安定的に栽培できる。したがって、「北海29号」を「ワセミドリ」に置き換えて普及することにより、採草および放牧用品種として収穫時期の分散化と利用時期の拡大による自給飼料の増産に貢献できる。
「北海29号」
「ワセミドリ」
5 普及指導上の注意事項
(1) 適応地域:北海道全域とし、「ワセミドリ」および「キタミドリ」に置き換える。
(2) 普及見込み面積:10,000ha。種子の供給は、平成20年頃に開始予定。
(3) 採草および放牧に利用できる。
(4) 栽培上の留意点:黒さび病の発生がやや多いので、発生した場合は早めに収穫する。