降霜確率にもとづく作物初霜害リスクの推定手法(指導参考事項)
北海道農業研究センター生産環境部気象資源評価研究室
執筆担当者 北海道農業研究センター 鮫島良次

 北海道の任意の地点について「平年より○日早く初霜日が来るのは×年に1回である」という確率を推定する手法を開発した。この手法と作物発育モデルを組み合わせて「○月×日に播種すると、△年に一回の確率で初霜害に遭う」という初霜害リスクの推定手法を開発した。さらにメッシュ気候値と組み合わせ、初霜害リスクマップを作成した。

1 試験目的
 初霜害は作物に甚大な被害を与えるので、栽培スケジュールを策定する際に、初霜害に関する支援情報があると役立つ。そこで、初霜日の統計値、および初霜害リスクの推定手法を開発した。開発した手法の適用例として、大豆の初霜害リスクマップ(1kmメッシュ)を作成した。

2 試験方法
(1)北海道各地の気象台の最近30年間の初霜日の記録から、初霜日の平年値や、3年、5年、10年、20年、30年に1回の確率で来る、季節はずれに早い初霜日がいつであるかを調べた(再現期間がk年の早い初霜日と呼ぶ)。
(2)地点別に、再現期間がk年の早い初霜日と、その日の日最低気温平年値(Tmin)の関係を調べた。この関係を利用して、任意の再現期間(k)の早い初霜日が、何月何日であるかを推定する方法を導いた。これにより、例えば10年に1回の確率の季節はずれに早い霜が、何月何日頃であるかを推定できる。
(3)さらに、ある日(x)より早く初霜日が来る確率(F(x))を推定する手法を導いた。これにより、例えば10月1日までに初霜が来るのは何年に1回の確率かを推定できる。
(4)上記手法と既往の作物発育モデル(大豆、品種ユキホマレ)を併用し、任意の日に播種された大豆が霜害に遭うリスクを推定した。さらに、メッシュ気候値(メッシュ気候値CD-ROM、気象庁)と組み合わせ、リスクマップを作成した。

3 試験成績
(1)再現期間がk年の早い初霜日とその日のTminの関係を得た(図1、(1)式)。
   Tmin = p + q ln(k) (1)
図1に示される関係は2つのグループに分かれた。全ての内陸地点を含むグループ1と、その他海岸地点のグループ2である。農業地帯を対象とする場合はグループ1の関係を使用する。(1)式は、例えば「10年に1度の早い初霜日(k = 10)の日最低気温の平年値(Tmin)は8℃程度である」ことを示している。

(2)(1)式を利用すると、k年に1回の確率で来る早い初霜日を、Tminの推移を調べることにより、その値が(1)式による計算値を初めて下回る日として推定できる。
(3)(1)式の逆関数((2)式)から、F(x)をTminを用いて推定できる。
   F(x) = 1 / k = 1 / ( exp( (Tmin - p) /q ) ) (2)
一方、ある播種日を設定して、その日からの毎日の平年気温を作物発育モデルに入力すると、成熟日を推定することができる。その成熟日以前に初霜日が来る確率として、作物が初霜害に遭うリスクを評価できる。

4 試験結果および考察
(1)試験成績の(2)に示した方法により、いろいろな長さの再現期間(k)についての、初霜日の統計値(初霜日の平年値や、10年に1回の確率で来る季節はずれに早い初霜日など)が推定できるようになった。図2、図3に例を示した。

(2)試験成績の(3)の方法の適用例として、大豆(品種ユキホマレ)の霜害リスクを計算した。石狩、空知、上川を中心とする地域を対象として、5月20日から6月10日までの間に5回の播種日を設定し、発育モデルを使用してそれぞれの成熟日を推定した。この成熟日以前に初霜日となる確率が霜害リスクである。結果の一部を図4に示した。

5 普及指導上の注意事項
(1)初霜日の統計値の推定手法と初霜害のリスク評価手法は、北海道全域への適用が可能であるが、海岸部のリスクを過大評価する場合がある。
(2)初霜害のリスク評価手法は、対象作物や品種を限定しないので、発育モデルを入れ替えれば大豆以外の作物にも適用可能である。その際、発育モデルの広適応性の確認が必要である。
(3)図2、3、4は1km四方の地域平均の初霜日や初霜害リスクを推定しており、地域内の凸凹などに起因する霜穴や霜道が考慮されていない。凹状地形では早めに初霜日が出現したり、リスクが高いことなどが考えられる。