成績概要書(2005年1月作成)
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研究課題:テンサイ褐斑病菌のDMI剤感受性低下実態と対応法
担当部署:十勝農試生産研究部病虫科
協力分担:
予算区分:受託
研究期間:2002〜2004年度(平成14〜16年度)
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1.目 的
道内における褐斑病菌のDMI剤に対する感受性の実態と、低感受性菌発生条件における薬剤の防除効果および防除体系の違いによる低感受性菌密度の変動を明らかにし、低感受性菌の密度を低いレベルに抑制可能な薬剤散布方法を検討する。
2.方 法
1)道内各地から分離した褐斑病菌のDMI剤に対する感受性検定
2)感受性の異なる褐斑病の越冬性、胞子形成能の比較。
3)感受性の異なる褐斑病に対するDMI剤の効果。
4)散布薬剤、散布体系が低感受性菌の分離率に及ぼす影響調査。
3.成果の概要
1)道内各地から分離したてんさいの褐斑病菌に対するジフェノコナゾールのEC50は、最低値が0.001ppm、最高値は2.768ppmであった(表1、表2)。
2)現在てんさいの褐斑病に農薬登録のあるDMI剤のEC50の最高値はジフェノコナゾールが最も低く、ビテルタノールが最も高かった(表2)。各DMI剤のEC50値はいずれの組み合わせも高い相関が認められ、感受性の違いは交差するものと考えられた(表3)。
3)ポットでの接種試験で、ジフェノコナゾールのEC50が1.0ppmを越える菌株は、薬剤の残効に対して影響を及ぼすものと考えられた。このことから、このような菌株を本成績ではDMI剤に対する低感受性菌と暫定的に呼ぶこととした。
4)同一菌株のジフェノコナゾール0.1ppm添加培地における菌糸伸長の薬剤無添加培地に対する相対生育度(RG(D:0.1))とEC50の対数値との間には高い相関関係が認められ、褐斑病菌のDMI剤に対する感受性検定に簡便法としてRG(D:0.1)が利用でき、これによると低感受性菌は、RG(D:0.1)で70以上に相当するものと考えられた。
5)平成14〜16年に全道の各圃場から分離した全菌株についてRG(D:0.1)を調べた。その結果、網走・十勝支庁管内で低感受性菌の分離率が高いほ場があった。
6)DMI剤に対する低感受性菌は野外で越冬可能であると考えられた。
7)DMI剤を連用すると、低感受性菌の分離率は明らかに高まった(図1)。
8)DMI剤と他の作用点を有する薬剤との体系散布は、各薬剤の残効期間の違いのためDMI剤の連用より散布回数が1回程度多くなるが、防除効果は同等からやや優る効果であった。一方、低感受性菌の分離率は、DMI剤の連用より低くかった(図2)。
9)DMI剤の連用区の罹病葉を翌年接種しDMI剤を連用することを繰り返すと、3年目には初発の段階で低感受性菌の分離率が70%近くの高率となった。連続接種3年目の年は高温年となり、本病の発生に好適な条件でもあったが、DMI剤の連用区は十分な効果が得られなかった。一方、体系散布ではDMI剤の連用より高い防除効果が得られた。
10)DMI剤を持続的に利用するためには、作用機作の異なる薬剤との体系散布が有効と考えられた。
表1 道内の各地から分離された褐斑病菌に対するジフェノコナゾールのEC50
分離年 | EC50 (ppm) | 供試菌株数 | |
最小値 | 最大値 | ||
平成12年 | 0.008 | 2.344 | 39 |
平成16年 | - | 2.768 | 8 |
表2 褐斑病菌のDMI剤に対する感受性(平成14年分離菌株)
供 試 薬 剤 | 常用濃度(ppm) | EC50 (ppm) | 供試菌株数 | |
最小値 | 最大値 | |||
ジフェノコナゾール | 83.3 | 0.001 | 1.611 | 40 |
テトラコナゾール | 100〜150 | 0.052 | 19.995 | 40 |
シプロコナゾール | 30 | 0.044 | 19.559 | 40 |
テブコナゾール | 133〜200 | 0.024 | 10.112 | 40 |
ビテルタノール | 250 | 0.071 | 35.597 | 40 |
表3 褐斑病菌に対するDMI剤のEC50間の相関係数(n=43)
供 試 薬 剤 | ジフェノコナゾール | テトラコナゾール | シプロコナゾール | テブコナゾール |
テトラコナゾール | 0.92 | |||
シプロコナゾール | 0.89 | 0.95 | ||
テブコナゾール | 0.88 | 0.94 | 0.95 | |
ビテルタノール | 0.92 | 0.96 | 0.96 | 0.93 |
図1 薬剤散布の違いがDMI剤に対する低感受性菌の分離率に与える影響(十勝農試試験圃)
図2 体系散布がDMI剤に対する低感受性菌の分離率に及ぼす影響
注:体系防除のTはテトラコナゾール乳剤1500倍、Mはマンゼブ水和剤500倍散布をさす
4.成果の活用面と留意点
1)てんさいの褐斑病に対する薬剤散布の参考資料とする。
2)本試験で示した薬剤散布による低感受性菌の分離率の変動は、十勝農試場内の接種条件で行われ
ている。
5.残された問題とその対応
なし