成績概要書 (2005年1月作成)
-----------------------------------------------------------------------------------
 研究課題:テンサイそう根病抵抗性を誘導するウイルス由来遺伝子の発現と機能解析
 担当部署:中央農試 農産工学部 細胞育種科,遺伝子工学科
        岡山大学 資源生物科学研究所 植物・微生物相互作用グループ
 協力分担:
 予算区分:受託
 研究期間:2001〜2003年度
-----------------------------------------------------------------------------------
1.目 的
 タバコ野生種の形質転換系利用によりテンサイそう根病に抵抗性として機能することが明らかになったテンサイそう根病ウイルス遺伝子の一部領域をてんさい植物体に導入し、その発現と抵抗性メカニズムを明らかにする。

2.方 法
1)テンサイそう根病抵抗性を誘導するウイルス遺伝子の探索
 テンサイそう根病ウイルス(BNYVV) RNA2にコードされる21kDa外被タンパク質遺伝子(CP遺伝子)および54kDaのCP読み過ごし領域(RTD遺伝子)の検定植物(Nicotiana benthamiana)への導入。形質転換体のウイルス汁液接種によるそう根病抵抗性検定。サザン法、ノーザン法による導入遺伝子の発現解析。
2)テンサイそう根病抵抗性遺伝子のてんさいへの導入
 BNYVV RNA2にコードされテンサイそう根病に抵抗性として機能する13kDaタンパク質遺伝子と15kDaタンパク質遺伝子を連結した領域(1315遺伝子、改変1315遺伝子)およびRTD遺伝子のアグロバクテリウム法によるてんさいへの導入。
3)てんさいにおけるテンサイそう根病抵抗性遺伝子の発現と機能解析
  形質転換体の葉への汁液接種によるそう根病抵抗性検定。RTD形質転換体のサザン法、ノーザン法あるいはウエスタン法による導入遺伝子の発現と機能の解析。
3.成果の概要
1)BNYVV RNA2(図1)にコードされるCP遺伝子あるいはRTD遺伝子がそう根病抵抗性遺伝子として機能するかを明らかにするため、N. benthamianaへ導入、得られた形質転換体の葉へのウイルス汁液接種により評価した。
2)その結果、RTD形質転換体でのみ、全身症状が現れない高度抵抗性(HR型)、あるいは接種2週間以内に全身症状が現れるが、3〜4週間後の新しく発達する葉では病徴が出ず、ウイルスの汁液接種に抵抗性となる回復抵抗性(RC型)の二種類の抵抗性反応が見られた。CP形質転換体では、ウイルスの移行が遅延する弱い抵抗性個体がわずかに得られた。
3)20のRTD形質転換T1系統は、抵抗性検定により6系統(30%)がHR型、9系統(45%)がRC型を示し、RTD遺伝子の導入により高度な抵抗性個体が高頻度に得られることが明らかになった。形質転換T2系統植物体のRTD遺伝子のコピー数はHR型およびRC型で2コピー以上、感受性型では1コピーであった。
4)RTD形質転換体の高度抵抗性はRNAサイレンシングよる、また、回復抵抗性はウイルス感染によって引き起こされる導入遺伝子のサイレンシングによると考えられた(図2、図3)。
5)N. benthamianaにおいてテンサイそう根病抵抗性遺伝子として機能することが明らかになった二種類の遺伝子、1315(あるいは改変1315)遺伝子およびRTD遺伝子をてんさいに導入し、それぞれ47および13の形質転換体を獲得した。
6)てんさい形質転換個体の葉へのウイルス汁液接種による抵抗性検定により、47の1315(あるいは改変1315)形質転換個体のうち2個体が病徴の進行が遅れる弱い抵抗性を示した。また13のRTD形質転換個体のうち2個体が接種葉に病徴が現れないHR型抵抗性を示した(図4)。
7)RTD形質転換てんさいの遺伝子解析により、HR型抵抗性はN. benthamianaにおけるRTD形質転換体と同様にジーンサイレンシングによるものと考えられた(図5、図6)。


図2 異なる抵抗性を示したRTD形質転換系統のノーザンブロット分析 (N. benthamiana)
    wt:非形質転換体、S:感受性、RC:回復抵抗性、HR:高度抵抗性


図3 BNYVV接種前のHR型およびRC型形質転換体の葉およびRC型形質転換体の接種後回復した葉でのsiRNAの検出(N. benthamiana)


抵抗性個体(T15) 感受性個体 未接種
図4 てんさいRTD形質転換体の葉へウイルス汁液接種による病徴(接種12日後の病斑)


図5 てんさいRTD形質転換個体のノーザン解析
   P10:非形質転換体、4-16:形質転換個体


図6 てんさいRTD形質転換個体のウイルス接種葉でのウイルスの増殖
    P10:非形質転換体、Mono:モノミドリ、Holl:Holly1-4、4-16:形質転換個体

4.成果の活用面と留意点
1)植物を利用した遺伝子の機能解析や発現メカニズム解明の参考となる。

5.残された問題とその対応
1)てんさい形質転換体の後代種子の採種と導入遺伝子の遺伝性確認。
2)1315遺伝子導入により得られた抵抗性個体の抵抗性メカニズムの解明。
3)ポリミキサ菌接種によるてんさい形質転換体の抵抗性検定。