成績概要書 (2006年1月作成)

研究課題:水稲「ふっくりんこ」の栽培可能地域の拡大
担当部署:道南農試 研究部 作物科
協力分担:中央農試水田農業科。雨竜西部、空知北部、空知東部、空知西部、空知中央、中後志、檜山北部地区農業改良普及センター。
予算区分:農政部事業
研究期間:2004〜2005年(平成16〜17年)

1.目的
  水稲の晩生良食味品種「ふっくりんこ」は道南南部に地域限定で作付けされている。中生の基幹品種「きらら397」「ほしのゆめ」「ななつぼし」は熟期が近いため刈取り適期が集中し、刈り遅れによる品質低下が問題となっている。そのため道南南部以外の気象条件の良い地域では「ふっくりんこ」の作付けによる熟期分散を図るため、栽培可能地域の拡大が要望されている。一方、遅延型冷害年には気象条件の良い地域でも晩生品種の収量、品質は著しく低下する危険があり、新たな栽培可能地域の選定に当たっては遅延型冷害の危険性を勘案する必要がある。このため平成16〜17年に現地7ヶ所と道南農試、中央農試で栽培試験を実施するとともに、簡易有効積算温度および出穂後40日間の日平均気温の積算値(以降、登熟積算温度と表す)を用いて可能地域の選定を試みた。

2.方法
 1)現地栽培試験:平成16〜17年に、空知、後志、檜山管内の7地点において奨励品種決定現地調査に準じた栽培試験を行い、生育・収量を調査した。
 2)「ふっくりんこ」の出穂性調査:過去の栽培試験の結果から出穂までに必要な簡易有効積算温度を推定した。
 3)「きらら397」と「ふっくりんこ」の出穂性比較:過去の栽培試験の結果から「きらら397」との出穂期の差を推定した。
 4)メッシュ気象データによる登熟積算温度評価:平成2〜17年の9試験地における「きらら397」の栽培試験結果とメッシュ気象データより「きらら397」の登熟積算温度を求めた。
   「ふっくりんこ」の登熟積算温度を“方法3)”で求めた出穂差から同様に求め、登熟性について評価した。

3.結果の概要
 1)「ふっくりんこ」は「しまひかり」と同程度の出穂期であるため、出穂晩限までの簡易有効積算温度は「しまひかり」と同じ1051℃を目安とした。
   試験を実施した2カ年は高温年であったため、全ての試験箇所で収量、品質ともに良好であったが、僅かながら1051℃未満の地域における成績が劣っていた(表1)。
 2)平成11年以降の栽培試験(n=51)で「ふっくりんこ」と「きらら397」の出穂差が2.7日であったため(図1)、「きらら397」の出穂期+3日を「ふっくりんこ」の出穂期として登熟積算温度を求
   めることとした。
 3)平成2〜17年に実施した栽培試験(n=144)の「きらら397」の出穂期を用いて、2品種の登熟積算温度を求めた(図2)。
 4)登熟積算温度が750℃未満を登熟不良条件、800℃以上を登熟良好条件と仮定し、両条件の出現度数をみると、「きらら397」に比べ「ふっくりんこ」では不良条件が増え良好条件が
   減少する。「ふっくりんこ」の作付けにより遅延型冷害の危険性が高まることが示された。特に、簡易有効積算温度1051℃未満の3か所では「ふっくりんこ」を栽培した場合に不良条件
   の出現度数が5〜7と高く、「きらら397」を栽培する場合と比較して3〜4回増加した(表2)。
 5)以上より、簡易有効積算温度1051℃以上でかつ気象条件の良い地域に限定して「ふっくりんこ」の作付けが可能と判断された。

    

表1 簡易有効積算温度の区分による現地試験の生育収量調査結果

 


図1 「ふっくりんこ」と「きらら397」の出穂差

 


図2 「きらら397」と「ふっくりんこ」の登熟積算温度

      

表2 各試験地における登熟不良条件および登熟良好条件の出現
    度数(平成2年〜17年)
 
注)新十津川町はアメダス観測地が水稲栽培地帯と離れており、3次メッシュの気象データから判断して30℃補正した場合の評価を()で示した

    

    

4.成果の活用面と留意点
 1)新たに栽培可能地域と判定された市町村にあっても、地区の標高や風当たりなどから有効積算温度を考慮し、栽培圃場を選定する。
 2)晩生種であるため新たな栽培可能地域の拡大にあたっては成苗の早植えを基本とし、土壌透水性の改善、防風施設の整備、水温上昇施設の設置などにより生育を促進して登熟温
  度の確保に努める。

5.残された問題とその対応