「ばれいしょ新品種候補「北海90号」」(普及推進事項)
                                                    北海道農業研究センター畑作研究部ばれいしょ育種研究室
                                                                         執筆担当者 高田明子

ばれいしょ「北海90号」は、フライ加工に適し、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有する。でん粉価が高く大粒・多収で、曝光によるグリコアルカロイド増加が少ない。

1 育成目的および来歴等
 (1)育成目的
  近年発生が拡大して安定生産を脅かしているジャガイモシストセンチュウに対し、抵抗性品種が数多く育成されてきたが、フライ加工原料用として利用できる品種がなく、同線虫抵抗性を持たない「ホッカイコガネ」が主として利用されてきた。同線虫抵抗性を持ち、フライ加工原料用として必要な大粒、多収、フライ加工適性を持つ品種の育成をねらいとした。

 (2) 来歴
  「北海90号」は、多収・低グリコアルカロイドの「ムサマル」を母、調理加工適性全般に優れる「十勝こがね」を父とするジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種間の交配集団から育成された。平成7年に交配、平成9年に播種し、以降選抜を繰り返し、平成12年には「95046-11」の名で生産力検定予備試験に供試、平成13年には生産力検定試験に供試し、「勝系2号」を付した。平成14年の生産力検定試験および系統適応性検定試験等により優れていると評価され、「北海90号」の地方系統番号を付した。平成15年より北海道の奨励品種決定基本調査等に供試し、フライ加工用品種としての実用性について検討してきた。

2 特性の概要
 (1) 長所および短所
  長所 1)ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ。
       2)多収である。
       3)曝光によるグリコアルカロイド増加が少ない。
  短所 1)打撲黒変耐性が弱である。

 (2) 特性の解説
  枯凋期は「ホッカイコガネ」並の“中晩生”で、茎長は「ホッカイコガネ」に比べてやや長く、平均一個重は「ホッカイコガネ」並で大粒である(表1)。収量は「ホッカイコガネ」並〜多く、でん粉価は「ホッカイコガネ」より高い(表1)。
  塊茎の形は、「ホッカイコガネ」よりやや短い“楕円”で、肉色は「ホッカイコガネ」同様の“淡黄”である(表2)。塊茎の休眠期間は「ホッカイコガネ」よりやや長く、生理障害では、二次生長と褐色心腐れは“無”であるが、中心空洞は“微”である(表2)。打撲黒変耐性は「ホッカイコガネ」より弱い“弱”である(表2)。
  病害虫抵抗性では、ジャガイモシストセンチュウに対し抵抗性を持ち(表3)、汚染地での栽培では同線虫の密度を低減し、未発生地では汚染の拡大を未然に防ぐ効果がある。また、疫病(圃場抵抗性)、そうか病、Yモザイク病に対する抵抗性は「ホッカイコガネ」と同じ“弱”である(表3)。
  フライは「ホッカイコガネ」に比べてやや褐変するが、十分使用可能な適性がある(表4)。肉質は「ホッカイコガネ」よりやや粉質の“中”で、煮崩れは“少”であり(表4)、「ホッカイコガネ」の煮崩れしない生食用向けの置き換えには適さない。えぐ味の元であるグリコアルカロイドは光にあたることにより増加するが、「北海90号」ではその増加が少なく、収穫後の品質維持に優れる(表4)。

 

3 試験成績

表1 生育および収量等試験成績

  注)上いも:20g以上のいも、育成地:芽室、5ヶ年(H13-17)の平均値、
      道内全試験箇所:試験場5箇所3ヶ年(H15-17),現地9箇所1-2ヶ年(H16,17),計33箇所年の平均値

表2 主要特性調査概要

   注)*:括弧内はばれいしょ種苗特性分類調査報告書(S56)に基づく登録値
 

表3 病害虫抵抗性検定試験成績

 

表4 品質特性および加工適性実需者評価成績

 注)*:グリコアルカロイド、H16,17の平均、単位mg/100gFW、
      フライ:H15,16の平均、歩留りは2t規模のH16単年度、2.8℃貯蔵1〜2月調査、○:良、□:中

フライ実需者コメント北海90号:褐変は加工法による対処可能。表面の硬さが良い。味が異なるので新しい商品として考え、新しい客の開拓にも繋げたい。

4 採用理由および普及見込み地帯
(1) 採用理由
 国産冷凍フライは7千t弱の生産量があり、その主要な原料として「ホッカイコガネ」が北海道内で1,140ha(H16加工用:統計上の区分、実際は生食・業務用も含む)栽培されている。しかし、この品種は、近年発生が拡大して安定生産を脅かしているジャガイモシストセンチュウに対し抵抗性を持たない。一方、平成4年に育成された「ムサマル」は同線虫に抵抗性を持つフライ加工原料用として期待されたが、褐色心腐が多いために加工用では9ha(H16)の普及にとどまっている。
 「北海90号」はフライ適性があり、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持ち、多収である。また、えぐ味の基であるグリコアルカロイドは光にあたることにより増加するが、「北海90号」ではその増加が少なく、収穫後の品質維持にも優れる。「北海90号」を「ホッカイコガネ」のフライ加工用の一部分に置き換えることにより、原料の安定供給と輸入品に対抗する高品質な国産フライの新しいレパートリーを加えることが可能になり、ばれいしょ国内生産に寄与するものと考える。

(2) 普及見込地帯 
 北海道の加工原料用ばれいしょ栽培地帯

 
図1 普及見込み地帯における「北海90号」の
   「ホッカイコガネ」に対する収量比(%)と枯凋期差(日)
( ):単年度、収量:規格内収量(農試●、H15-17平均)、中以上いも重(現地▲、H16,17平均) 

 

5 普及指導上の注意事項
1)打撲黒変耐性が弱なので、収穫や移送時に打撲を与えないように注意する。
2)「ホッカイコガネ」より中心空洞が発生しやすいので、十分な培土を行い、疎植・多肥をさける。


6 その他
 育成従事者氏名:森元幸、小林晃、高田明子、津田昌吾、高田憲和、梅村芳樹、中尾敬、吉田勉、百田洋二、串田篤彦、植原健人