「道央の温度条件とほうれんそうの寒締め作型」(指導参考事項)

                                                  北海道農業研究センター生産環境部気象資源評価研究室
                                                  執筆担当者 濱嵜 孝弘

 道央では無加温ハウスでほうれんそうの寒締め栽培が出来、一般的なハウスの開閉管理で寒締めする作型と、ハウスの側窓を開放して寒締めを10日程度前進させる作型、および、極低温期に側窓を開放して高糖度の寒締めほうれんそうを作る作型の3種類の作型が成り立つ。

1.試験目的
 近年、冬期の低温を利用して糖度・品質を向上させた「寒締めほうれんそう(写真1)」の需要が伸びている。現在、寒締めほうれんそうは府県で生産されているが、低温資源の豊富な北海道でも有望な品目であり、その導入が始められている。そこで、道央におけるほうれんそうの寒締め栽培適応性と、想定される作型を温度条件から検討した。

2.試験方法
 1)2003、2004、2005年度の冬の3回、北農研(札幌市羊ヶ丘)の無加温のパイプハウスでほうれんそう品種「まほろば」を栽培した。播種日は、2003年は10月23日と同31日、2004年は10
  月5日と同15日、2005年は9月28日と10月5日とした。
 2)播種後、ハウス内が日中高温にならないよう(20〜25℃以下になるよう)換気側窓の開閉を行った(以下、「一般的な開閉管理」とする)。
 3)地上部生体重と最大葉の糖度(BRIX%)の経過を測定した。
 4)ハウス内気温(高さ50cm)と地温(深さ10cm)を測定した。
 5)さらに強い低温への反応を明らかにするため、2月半ば以降、ハウスの側窓を終日開放して寒気暴露処理を行い、開放後3〜4週間目に地上部生体重と糖度を測定した。

3.試験成績

             
図1.ホウレンソウの糖度*と地温**との関係                         図2.播種日と12月20日*時点の地上部
 *)葉身と葉柄を含む最大葉の値。8〜12個体の平均値。                  生体重との関係
 **)深さ10cmの地温の収穫前5日間平均                           *)札幌の平年で寒締めが始められる日

 

4.試験結果および考察
 1)ほうれんそうの糖度(BRIX糖度)は、収穫前5日間の平均地温が1℃下がるにつれて概ね2%の割合で上昇する(図1)。糖度8%以上を寒締めほうれんそうの品質基準とすると、収
  穫前5日間の平均地温5℃以下が寒締めほうれんそうの目安温度となる。
 2)無加温ハウス内の日平均地温5℃は、一般的な開閉管理をしている場合では、屋外の日平均気温が-2℃に概ね相当する。すなわち、屋外の日平均気温が-2℃以下であれば、一
  般的な開閉管理を行う無加温ハウスで寒締めほうれんそうが栽培できる。札幌の平年値では日平均気温が-2℃を下回るのは12月下旬〜2月末日までであり、函館では1月初旬〜2
  月下旬まで、岩見沢では12月上旬〜3月上旬までである。
 3)側窓を終日開放した場合、概ね日平均気温0℃で地温が5℃となり、札幌では一般的な開閉管理に比べ寒締めほうれんそうの出荷を10日程度前進させることが出来る。
 4)寒気暴露処理によりハウス内日平均気温は-9.7℃(日最低気温-17.0℃)まで低下したが、既に寒締めされていたほうれんそうには障害が発生しなかった。
  また、寒気暴露により日平均地温は2℃以下となり、ほうれんそうは糖度が12%以上の高糖度寒締めほうれんそうになる(図1)。
 5)日平均地温2℃は、概ね、ハウス内日平均気温が-4℃に相当し、平年の日平均気温が-4℃以下となるのは、札幌では1月中旬〜2月上旬、岩見沢では12月末〜2月末で、函館で
  は平年値では-4℃以下にはならない。
 6)寒締めが可能な低温下では、ほうれんそうの生育はほとんど停止するため、低温になる前に出荷サイズまで生育させる必要があり、そのための播種期の選定が重要となる。
  播種日と12月20日時点の地上部生体重との関係(図2)から、札幌の平年において、寒締めが始められる12月20日までに一株重30〜35gとするための播種適期は9月下旬である。
 7)道央では、一般的な開閉管理で寒締めほうれんそうを栽培する作型と、極低温期に側窓を開放して高糖度の寒締めほうれんそうを作る作型、および、十分な低温になった時点でハ
  ウスの側窓を開放して寒締めする作型の3種類の作型が成り立つ(図3)。

5.普及指導上の注意事項
 1)ハウス内日平均気温-10℃以下でのデータはないことから、本成果は岩見沢以南の道央地域を対象とする。
 2)品種「まほろば」の試験結果であるので、それ以外の品種に対しては、それぞれの品種の特性を考慮して適宜判断する。
 3)地温の変化は気温より緩やかなので、側窓開放から十分に糖度が上昇するまで2週間程度必要である。
 4)ここで基準とした一株30〜35gは、最低限の大きさとして設定した(流通品は50g前後が多い)。
 5)本試験では株間10cm×条間15cmとしたが、作業性の面から栽植密度はこの半分位が望ましい。
 6)今後、適品種の選定、道央以外の地域での栽培法の検討が必要である。
 7)本成績は作型等を平年の温度から求めているので、気象の年次変動による栽培リスクの評価が必要である。