成績概要書(2006年1月作成)

研究課題:同時拍動方式搾乳装置の特性

担当部署:道立根釧農試 研究部 酪農施設科、乳質生理科
協力分担:なし
予算区分:民間受託
研究期間:2005年度(H17年度)

1.目的
 パイプラインミルカの拍動方式のうち、交互拍動方式搾乳システムは、搾乳中の真空度変動が小さくなるように設計されており、搾乳サイクル中の搾乳期とほぼ同じ真空度が休止期にも乳頭先端に作用する。一方同時拍動方式搾乳システムでは、休止期に乳頭先端真空度が低下して乳頭先端に作用する圧力が低くなるので、交互拍動方式と比べてシステム真空度を高く設定することができ、平均搾乳速度が増加して搾乳時間が短縮するといわれている。
 本試験では、新たに開発された同時拍動方式搾乳システムについて、模擬搾乳試験により同時拍動方式と交互拍動方式での乳頭先端真空度変動の違いを明らかにするとともに、乳牛を用いた搾乳試験を実施して乳頭先端への影響や搾乳時間などを調査して、その特性と利用性を明らかにする。

2.方法
 1)模擬搾乳装置による搾乳中の各部真空度調査
 根釧農試場内の模擬搾乳装置を用い、同時拍動方式および交互拍動方式による模擬乳頭先端他各部の真空度を調査した。
<調査項目>流量、各部真空度(模擬乳頭先端、拍動室、レシーバジャー)
 2)場内搾乳試験
 根釧農試場内のパイプラインミルカに同時拍動方式の搾乳ユニットを取付け、牛床からの生乳持上げ高さ2360mm、システム真空度50kPaで、4頭のホルスタイン種乳用牛を供試して搾乳試験を実施した。
<調査項目>搾乳時間、乳量、平均搾乳速度(乳量/搾乳時間)、乳頭の状態、蹴り回数と時間帯
 3)現地導入農家における搾乳作業調査
 同時拍動方式を導入した農家5戸での搾乳作業を調査した。
<調査項目>システム設置状況、搾乳時間、搾乳頭数

表1 同時拍動と交互拍動での模擬乳頭先端真空度

図1 模擬搾乳装置での各部真空度(上:同時拍動、下:交互拍動、流量3kg/分)

表2 試験時および前産次の日平均乳量

表3 乳頭先端スコアの基準※)

表4 供試牛の乳頭先端スコア

表5 同時拍動と交互拍動での平均搾乳速度

表6 現地導入農家での調査結果

3.成果の概要
 1)模擬搾乳装置を用い、同時拍動方式による搾乳サイクル休止期の乳頭先端真空度の低下を交互拍動方式と比較したところ、システム真空度は48.2kPa(同時拍動)、44.1kPa(交互
  拍動)であるが、乳頭先端真空度はそれぞれ30.1kPa、41.7kPaと同時拍動方式の方が低く、低下の度合いも大きいことが示された(表1、図1)。
 2)日平均乳量27.4〜50.8kgの搾乳牛を用いた場内搾乳試験(表2)では、試験開始当初から前処理時と搾乳時の蹴り、乳頭表面のうっ血がみられた。
  搾乳時の蹴りは2週間程度でみられなくなったが、乳頭表面のうっ血は59〜74日間の試験終了時にも継続していた。しかし乳頭先端部の観察では、試験前115日間の交互拍動方式搾
  乳により乳頭先端スコアが1〜2に達していた初産の供試牛(753)において、試験期間中にはそれ以上のスコア上昇がみられなかった。
  その他の牛については、交互拍動方式で乳期の進行に伴うスコア1〜2の変化の範囲内であることから、交互拍動方式と同程度であると考えられた。
 3)同時拍動方式での供試牛3頭の平均搾乳速度を、場内搾乳試験後の同じストールでの交互拍動方式による平均搾乳速度と比較したところ、それぞれ2.6〜2.7kg/分、2.3〜2.9kg/分で
  あり、差はみられなかった(表5)。
 4)現地農家でのシステム設置状況は、生乳持上げ高さが750〜1500mm、システム真空度は48〜49kPaであった。導入農家5戸での搾乳能率は1ユニットあたり3.4〜4.1頭/hと、一般的
  な数値であった。また現地農家に対する聞取りでは、乳頭表面のうっ血は確認されなかった(表6)。
 5)以上からこの同時拍動方式搾乳システムは、搾乳サイクル休止期の乳頭先端真空度が交互拍動方式より低くなるが、平均搾乳速度に差が見られなかったことから、既存の搾乳シス
  テムと同じように利用できると判断される。

4.成果の活用面と留意点
 ・本成績は、同時拍動システムの導入検討に際し、参考として利用する。

5.残された問題とその対応
 ・生乳持上げ高さと最適なシステム真空度調整方法の検討