成績概要書(2006年1月作成)

課題分類:
研究課題:高感度で簡便な異常プリオン蛋白質検出法
(異常プリオン蛋白質の高感度で簡便な検出法の開発)

担当部署:道立畜試 畜産工学部 遺伝子工学科・感染予防科・代謝生理科
協力分担:農研機構 動物衛生研 感染病研究部 細菌病研究室、北大大学院 獣医学研究科プリオン病講座、栄研化学株式会社 生物化学研究所、(株)ジェネティックラボ 研究開発部
予算区分:道費(牛海綿状脳症対策技術開発費)
研究期間:2002〜2005年度(平成14〜17年度)

1.目的
 牛海綿状脳症(BSE)のスクリーニング検査には、現在ELISA法が用いられているが、生前診断や牛由来製品の安全確認などに、さらに高感度で簡便な異常プリオン蛋白質(PrPSc)検出技術の開発が求められている。本試験では、ウシ型プリオン蛋白質(ウシPrP)に対するモノクローナル抗体(mAb)を作製し、ルシフェラーゼの生物発光法を原理とするPrPScの検出法を開発する。

2.方法
 1)既存のモノクローナル抗体を用いたプリオン蛋白質検出法の検討
 2)抗ウシ型プリオン蛋白質モノクローナル抗体の作製
 3)磁性粒子を用いた生物発光法によるウシ型プリオン蛋白質検出法の開発
 4)BSE感染脳組織を用いた市販BSE検査用ELISAキットとの比較検討

3.成績の概要
 1)磁性粒子を用いた生物発光法(磁性粒子BL法:図1)は、既存の抗マウスPrP mAbを用いたELISA法およびプレートを用いたBL法より、ウシ型組換えプリオン蛋白質(ウシre-PrP)お
  よび正常牛の脳乳剤に対する反応性が高く、プリオン蛋白質検出法として優れていた。
 2)大腸菌による蛋白質発現によりウシre-PrPを作製した。このウシre-PrPを免疫したマウスの脾臓細胞とNS1細胞を融合させ、12株の抗体産生細胞株を樹立した。これらの細胞から
  モノクローナル抗体(1b?12b)を作製した。ウシre-PrPおよび正常脳乳剤を抗原とするラジオイムノアッセイの結果、高い反応性を示す捕捉用抗体と検出用抗体の4つの組合せを見出
  した。
 3)抗体を磁性粒子BL法へ応用したところ、捕捉用抗体6bと検出用抗体2bの組合せはウシre-PrPおよび脳乳剤への反応性が高かったため、ウシPrP測定用抗体とした。
  磁性粒子BL法は、マウスPrPに比べ、ウシPrPへの反応性が高かった。BSE感染脳乳剤に対して、陰性対照である標準液に比較し有意に高く、PK抵抗性プリオン蛋白質の検出が
  可能であった(図2)。PK処理後のBSE脳乳剤を感作させた磁性粒子をウエスタンブロット法でPrPの検索を行ったところ、約27kdにPrPを検出した(図3)。
 4)BSE感染牛の大脳を用いて市販のBSE検査用ELISAキットと比較したところ、磁性粒子BL法は、他の検査法よりもすべての希釈倍率で感度を上回り(図4)、また検査に必要な合計所
  要時間は約2時間45分であり、ELISA キットの約2/3であった(表1)。

 これらのことから、本課題で作製した抗ウシmAbを用いた磁性粒子BL法は、BSE感染脳組織から微量のPrPScを検出することができ、市販のBSE検査用ELISAキットより高感度で、また検査時間が短いなどの利点を有し、将来BSEの診断法への応用が期待される。

 

図1磁性粒子BL法の原理と手順

図2 BSE感染脳からのプロティナーゼK抵抗性プリオン蛋白質の検出

図3 ウエスタンブロット法による磁性粒子からのプリオン蛋白質の検出

図4 BSE感染脳に対する検出感度比較

4.成果の活用面と留意点
 1)本法は異常プリオン蛋白質の高感度で迅速な測定法であり、BSEにおける異常プリオン蛋白質の体内分布の解析等に用いることができる。
 2)BSE感染脳乳剤や感染性材料の取り扱いには、バイオセーフティ基準3に準拠した実験室を必要とする。

5.残された問題点とその対応
 若齢牛にも対応した超高感度プリオン検出技術の開発と生前診断を目指したBSEマーカー物質の検索