成績概要書   (2006年1月作成)

研究課題:乳牛のストレス評価指標の作成と飼養管理への応用
         (ストレスが乳牛の生産性と生体機能に及ぼす影響の解明)

担当部署:道立畜試 畜産工学部 代謝生理科・感染予防科
協力分担:なし
予算区分:道費
研究期間:2003〜2005年度(平成15〜17年度)

 1. 目的
 乳牛の不適切な飼養管理によって生じるストレスは、生産性低下や疾病発生の一因と考えられている。しかし、乳牛飼養管理上のストレスを評価した研究は少ない。そこで今回、血液、尿および唾液を用いて乳牛のストレス評価指標を作成するとともに、搾乳待機室での長時間拘束および初妊牛の繋留方法の違いによる影響について検討した。

2. 方法
 1)乳牛のストレス評価指標の検討
    (1)実験的ストレス状態における生体反応 
   (2)各種ストレス条件下におけるストレス指標の検討 
   (3)ストレス評価指標の作成
 2)ストレスが乳牛の生産性や生体機能に及ぼす影響
   (1)搾乳待機室での長時間拘束が生産性や生体機能に及ぼす影響
   (2)繋留方法の違いが初妊牛に及ぼす影響

3. 成果の概要
 1)(1)乳牛4頭に副腎皮質刺激ホルモンを投与し、実験的にストレス状態を再現したところ、血漿・尿・唾液コルチゾル濃度の上昇(図1)および白血球数の増加を示した。
   (2)-1 乳牛4頭を約6時間トラックで輸送したところ、血清コルチゾル濃度および好中球比率は有意に(P<0.05)上昇し、白血球数は増加傾向を示した(表1)。
   (2)-2 第四胃変位牛31頭を手術のために診療所へ輸送したところ、血漿・尿・唾液コルチゾル濃度は高い数値を示した(表2)。また、分娩前後の乳牛17頭(うち疾病牛4頭)の血漿・尿・
    唾液コルチゾル濃度を測定したところ、いずれも分娩当日に上昇し(表2)、疾病牛ではさらに高い傾向であった。
   (3)(1)と(2)より、コルチゾル濃度はストレス評価指標として有効であることが示された ことから、健康な乳牛の血漿・尿・唾液コルチゾル濃度を測定し(200〜212検体)、ストレス評価の
    目安として統計学的に算出した平均値および標準偏差を示した(表3)。
 2)(1)-1 搾乳待機室での温湿度指数(THI)と直腸温の関係を11農場で調査した結果、これらには正の二次相関があった(図2)。また、待機室に設置した送風機および細霧システムは、
    乳牛の皮膚温および呼吸数を低下させる効果を示した(表4)。
   (1)-2 実験的に夏日(THI76)と真夏日(THI81~87)の搾乳前に、乳牛4頭を搾乳待機室で2.5 時間拘束したところ、夏日には直腸温と血漿コルチゾル濃度の上昇はなかったが、真夏日
    にはそれらの上昇(表5)および乳量の減少傾向が認められた(図3)。
   (2)繋留方法の違いが初妊牛(22頭)に及ぼす影響を検討したところ、馴致せずスタンチョンに繋留した場合、タイストール繋留と比べて起立回数の減少、起立時間の増加および乾物摂
    取量の減少がみられ、血漿コルチゾル濃度が上昇する個体も認められた(表6)。

 以上の結果から、血液、尿および唾液コルチゾル濃度は乳牛のストレス評価指標として有効であることを示すとともに、飼養管理上のストレスが生産性と生体機能に及ぼす影響を明らかにした。

図1 副腎皮質刺激ホルモン投与による血漿・尿・唾液コルチゾル濃度の推移


表1 長距離輸送した牛の血液成分

 

表2 輸送した第四胃変位牛と分娩牛のコルチゾル濃度

 

表3 血漿・尿・唾液コルチゾル濃度の標準値

表4 搾乳待機室における暑熱軽減効果

 

表5 搾乳待機室での長時間拘束が乳牛に及ぼす影響

 

表6 繋留方法の違いが初妊牛に及ぼす影響

 

4. 成果の活用面と留意点
 ①血漿(清)・尿コルチゾルの分析は、臨床検査センターに依頼できる。
 ②コルチゾル濃度は牛の興奮で上昇するので、血液は尾静脈から採取するのが望ましい。

5. 残された問題とその対応
 ①乳牛の飼養管理全般に関わるストレスの評価とストレス軽減策等を検討する。