成績概要書(2006年1月作成)

研究課題:草地における重窒素標識乳牛堆肥およびスラリーに由来する窒素の動態
(寒冷寡照.土壌凍結条件下における草地酪農地帯の環境負荷物質の動態解明に関する研究)

担当部署:根釧農試 草地環境科
予算区分:指定試験
研究期間:1999〜2003年度(平成11〜15年度)

 

1.目的
 草地に施用されたふん尿由来窒素の動態を把握するため、重窒素標識肥料を草地に施肥して飼料を調製し、乳牛に給与してふん尿を採取し、重窒素標識堆肥およびスラリーを調製して採草地への施用試験を実施し、同位体希釈法を用いて窒素の分配を明らかにする。

2.方法
 1) 重窒素標識堆肥およびスラリーの調製(1999-2000年)
   供試草地:チモシー単播草地(150m2)、供試牛:ホルスタイン種育成牛1頭(486kg)、重窒素硫安(8.36atom%)107kg/ha早春施肥、標準栽培、
   飼料給与(1番草14日間・2番草6日間・無標識飼料9日間)、毎日ふん尿採取、堆肥化(70日間)、スラリー調製(ふん・尿・水混合)
 2) 草地更新時にすき込まれた堆肥に由来する窒素の動態(2000-2001年)
   無底ポット試験(直径25cm、深さ60cm)、供試草種:チモシー、堆肥施用量:0,50,100,200t/ha
 3) 維持管理時に表面施用された堆肥およびスラリーに由来する窒素の動態(2000-2003年)
   供試草地:チモシー単播草地 ふん尿施用量40t/ha、施用時期(秋/春)×化学肥料(有/無)

3.成果の概要
 1) 重窒素標識堆肥調製試験における重窒素の回収率は、飼料調製段階、ふん尿採取段階、堆肥化段階でそれぞれ50%、56%および85%であった。
  したがって本法では、草地に施用した重窒素のうち、9%は尿として、17%は堆肥として回収できると期待された(表1)。
 2) 草地更新時に牛ふん堆肥を50-200 t/haすき込んだ結果、差引法では、施用された堆肥窒素の5-11%に相当する窒素量が更新翌年の収穫によって持ち出された。一方、同位体希釈
  法で得た更新翌年における堆肥由来の窒素吸収量は、堆肥による窒素施用量の2-4%と算出され、差引法との違いは土壌から供給された量の差によると考えられた(表2)。
 3) すき込まれた堆肥の重窒素は、翌年秋までに5-10%が牧草体に移行し、65-87%が0-50cmの土壌に含有され、4-30%が回収されなかった。堆肥施用量を増やすと、土壌と牧草の重窒
  素含有量は増大したが、下層土への移動量も増え、回収率は低下した(表3)。
 4) 表面施用時のスラリーにおける窒素の肥効は、差引法と同位体希釈法で類似した評価値を得たが、堆肥では大きな差が生じた。土壌中における堆肥由来窒素の動態はスラリーとは
  異なると推察された(表4)。
 5) 表面施用されたスラリー由来の窒素は、化学肥料併用時3年間で23%が収穫によって持ち出され、土壌中に53%保持され、その結果、行方不明は20%であった。堆肥では収穫による持
  ち出しがスラリーよりも少なく10%、対照的に土壌中の保持量が多く68%、その結果、行方不明はスラリーとおおむね同等の15%と算出された(図1)。
 6) 牧草収穫部が堆肥の窒素を1kg吸収した時に合わせて吸収した土壌窒素量は、スラリーの場合よりも多いと評価された(図1)。
 7) 適正な施用量の範囲内では、施用時期、化学肥料の有無などの栽培条件は、地上部の利用率を変化させたが、行方不明量には大きな影響を与えなかった。

以上のように、本成果は重窒素標識ふん尿の調製に係る工程と回収率を示すとともに、草地における堆肥およびスラリー施用後のふん尿由来窒素と土壌由来窒素の割合を明らかにし、今後の研究に対する参考情報を提示した。

 

 

 

 

 

   

4.成果の活用面と留意点
 1) 本成果は、ふん尿有効利用技術の開発とその時の環境影響評価を目的とする研究の参考になるとともに、生産現場におけるふん尿主体施肥普及時の基礎知識として有用である。

5.残された問題点とその対応
 1) ふん尿表面施用後4年目以降の肥効解析