成績概要書  (2006年1月作成)

研究課題:食用ゆりにおけるホウ素過剰症の発生とその診断技術
      (突発病害虫および生理障害診断)    

担当部署:上川農試栽培環境科、名寄地区、大雪地区農業改良普及センター
協力分担:
予算区分:道費
研究期間:2004〜2005年度(平成16〜17年度)

 

1.目的
 
 食用ゆり栽培圃場で発生したホウ素過剰による生理障害について、農業現場に緊急に周知するとともに、ホウ素資材の過剰施肥回避についてあらためて注意を喚起することを目的とした。

2.方法
 1)現地発生対応
  
平成16年6月名寄市、平成17年7月美瑛町の食用ゆり栽培圃場で発生した原因不明の生理障害について普及センターによる現地対応の経緯、分析結果についてとりまとめた。
 2)再現試験(ホウ素用量試験)
 
 試験年次・場所:平成17年・上川農試温室
  使用資材:1/2000aワグネルポット、水稲育苗用覆土(pH6.0)
  ホウ素(B)添加量:0、0.5、1、2、5、10ppm(ホウ酸使用)
  品種:白銀(1個体植え/ポット、4/19植付、6/16栽培中止)
  調査項目:生育状況および障害の発生観察、土壌および作物体の採取・分析

3.成果の概要
 
1)平成16年名寄市、平成17年は美瑛町(2件)の食用ゆり栽培圃場において原因不明の生理障害が発生した。特徴的な症状は(日)下葉の枯れ上がり、(月)生育遅延、(火)葉色の黄
  化であった(図1)。
 2)ウイルス検定の結果「ユリえそ病」による障害ではないと判断された。
 3)現地の障害発生土壌(表1)および作物体分析の結果、熱水可溶性ホウ素は平均2.6ppm(健全圃場1.1ppm)、葉身中ホウ素濃度は平均162ppm(健全葉50ppm以下)と極めて高いこと
  が判明した。聞き取り調査からはホウ素資材の過剰施用が明らかとなった。
 4)ポットを用いたホウ素用量試験の結果、ホウ素高濃度区では現地圃場と同様の葉枯れ症状が確認された。現地対応および再現試験の結果を総合的に考慮して、この障害はホウ素
  過剰により引き起こされる生理障害であると診断した。
 5)現地およびポット試験での土壌分析値を集計した結果、熱水可溶性ホウ素2ppm前後を境界値として障害の発生が認められることが明らかとなった(図2)。
 6)ホウ素資材の施用にあたっては、現行の診断基準値である0.5〜1.0ppmを遵守し、事前の土壌診断により基準値以上であった場合には施用を見合わせる必要がある。
 7)前作物に対してホウ素を多量に施用した場合やマルチ栽培であった場合には、ホウ素が高濃度に残存している可能性があり注意が必要である。
 8)食用ゆりの生理障害診断において、ホウ素資材の施用履歴があり茎葉発育最盛期での葉身中ホウ素濃度が100ppm以上である場合、ホウ素過剰症の可能性が高い(図3)。

 

  

[具体的データ]
 

 

4.成果の活用面と留意点
 
1)食用ゆり栽培圃場でのホウ素施肥指導に活用できる。
 2)土壌中熱水可溶性ホウ素が2ppmを超える場合には生理障害が発生する危険性が高い。

5.残された問題点とその対応
 
1)土壌に施用されたホウ素資材の挙動
 2)ホウ素の簡易・迅速分析法の検討