成績概要書(2006年1月 作成)
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 研究課題:食用ゆりの黒腐菌核病の発生実態とその対策
       (食用ゆり黒腐症の発生要因解明と対策試験)
 担当部署:十勝農業試験場 生産研究部 病虫科
 協力分担:十勝南部地区農業改良普及センター
 予算区分:道費
 研究期間:2005年(平成17年度)
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1.目 的
近年十勝南部地域で発生している、食用ゆり鱗茎の黒変症状の原因を解明し、その防除方法の検討を行う。


2.方 法
(1)発生実態調査。
(2)分離菌の病原性確認と同定。
(3)種球伝染および土壌伝染に関する調査。


3.成果の概要
(1)実態調査より、十勝南部地域の13戸の食用ゆり栽培農家のうち7戸で本症状が発生しており、特に低温年に多発する傾向があった。
(2)本症状は、食用ゆりの鱗茎に発生し、黒腐症状を呈するものである。初め小さな暗緑色病斑が現れ、前兆として黄変部や水浸部が現れることはない。やがて薄墨色の変色が拡がり、りん片が一枚ずつ黒変する。最終的には球全体がコールタールのように黒くなり、萎凋を経て乾固する。鱗茎組織内の浅い部分には、初め球状でやがて不定形となる黒色菌核が形成される。貯蔵中に発生した場合は灰白色ビロード状の菌糸が表面に認められる。また、地上部には病斑が進展しない。
(3)黒変部、内部の水浸部、菌核および菌糸から同一と考えられる糸状菌が高い確率で分離された。接種試験により黒変症状が食用ゆり鱗茎に再現され、また接種菌が再分離されたことから、分離菌は本症状を引き起こす病原菌であると証明された。
(4)本病原菌はPDA培地上では生育適温は20℃で、25℃以上では生育が抑制された。菌核は20℃のとき最も早く形成され、PDA上では菌核以外の器官は形成されなかった。人工接種時における本病の発病適温は10℃であった。
(5)本病原菌はゆりとねぎに病原性があり、その他にはにんにく、たまねぎ(ネギ属)、およびチューリップ(チューリップ属)に弱い病原性を示した。
(6)形態的特徴および寄主範囲より、本病原菌をSclerotium cepivorum var. tulipae Desm.と同定し、本病は若井田ら(1970)によるユリ類黒腐菌核病であった。
(7)本病は種球伝染する(表1)ので、健全球を用いるのが本病対策の基本である。ただし、種球は外観無病徴でも汚染されている場合があり、肉眼でそのような汚染種球を選別することは困難であるため、注意が必要である。
(8)春に得た本病原菌の培養菌核を土壌に埋設すると、菌核は越夏の過程で死滅した(表2)。ただし、ゆり栽培後の経過年数が少なくとも4年以下の発生ほ場では本病が発生することから、数年間は本病原菌は土壌中に生存していると考えられる(表3)。
(9)汚染球が混入すると貯蔵中に発病球率の増加が観察された。出荷調製の段階で温度管理による発病抑制はできないと考えられた。
(10)以上より、本病の防除対策を表4に提案した。


        表1 由来の異なる種球を用いた場合の発病球率の違い

供試種球

平成16年

平成17年

収穫直後

半年保存後1)

収穫直後

2週間後2)

発生ほ場産種球3)

13.3%

76.7%

7.3%

8.8%

無発生ほ場産種球

0%

0%

0%

0%

  注:1)収穫後、発病球を排除しないで8℃で保存した。
     2)収穫後、発病球を排除して5℃で保存した。
     3)無病徴種球を用いた。

    表2 土壌への埋設日数と菌核生存率
調査月日 5/1 6/2 8/11 9/7 10/3
埋設期間 0日 33日 103日 130日 156日
菌核生存率(%) 78.0 65.8 13.6 15.5 13.7


   表3 ゆり作付け後年数の異なるほ場における黒腐菌核病の発病球率

処理方法

発病球率(%)

1年目3)
(H16)

2年目(H15)

3年目(H14)

4年目(H13)

5年目(H12)

6年目(H11)

7年目 (H10)

ほ場試験1)

13.0

2.0

2.0

2.0

0

0

0

室内試験2)

100

100

80

60

0

0

0

注:1)ほ場に健全球を植え付け、収穫後2週間冷蔵、4年目のみ100球調査、その他は全て200球調査。
  2)土壌中に無傷健全球を入れ、10℃で8週間おいた後、5球調査。
  3)ゆり栽培後年数(前回のゆり栽培年)。

            表4 食用ゆりのユリ類黒腐菌核病に対する防除対策
 1.発生ほ場産の鱗茎を種球・養成球として用いることは避ける。
 2.次のゆり作付けまでの年数をできるだけ長く空ける基本対策を遵守する。特に  発生ほ場では、その間は寄主となりうるネギ属作物の栽培も避ける。
 3.発生ほ場で、ゆり栽培後の経過年数が少なくとも4年以下の場合は、土壌中の  本病原菌の生存が確認されているので、管理作業の際の土壌の移動に注意する。


4.成果の活用面と留意点
ユリ類黒腐菌核病発生ほ場での対策に活用する。
 

5.残された問題とその対応
温湯・薬剤による種球消毒の検討。