成績概要書(2006年1月作成)

課題分類:
研究課題:乳牛ふん尿による温暖化影響の地域単位評価手法と個別型バイオガスプラントの負荷削減効果

担当部署:根釧農試 研究部 経営科、酪農施設科
担当者名:
協力分担:
予算区分:外部資金
研究期間:2003〜2005年度(平成15〜17年度)


  

1.目的
 行政機関が新事業を行なう場合に求められる説明責任は、経済効果の評価ばかりではなく、今は環境へ与える影響についても広く求められつつある。そこで、LCAの評価対象であった点的な環境負荷定量分析を拡大させ、地域全体の特定産業部門を範囲とした地域単位LCAの評価手順を示す。その上で、根室管内A町の解析結果を事例に、市町村自治体行政の農業政策への活用を図る。

2.方法
(1)酪農経営調査によるふん尿処理実態の把握
(2)個別型バイオガスプラントふん尿処理についての原単位設定と負荷変動の分析
(3)地域単位LCAモデルの提示と町全体を対象とした温暖化負荷定量分析
(4)地域単位LCAを用いた自治体政策による補助の負荷削減効率検証

3.成果の概要
 1)地域単位LCAは、1つの集落や農家集団などを対象としたLCAを拡張させ、実数データを直接収集するのが困難な市町村域や都道府県といった広範囲の地域を対象として評価をす
  る。評価の方法と、そのために必要な地域のデータを示した(図1)。
 2)根釧農試の個別型バイオガスプラントにおいて、平均有機物濃度7.5%のスラリーを日量3m3供給し、バイオガス生成量を測定した。安定した運転状況が認められた2004.9〜2005.9の
  データから、根釧農試の個別型バイオガスプラント処理によるメタン生成量原単位として、投入有機物1kg当たり0.19m3/kgVSを設定した(図2)。
 3)根室管内A町を例に、A町全体の酪農ふん尿処理に起因する温暖化負荷を、地域単位LCAによって計算した。結果、1年間で二酸化炭素に換算して約21万9千トンであった(表1)。
  これによって、他産業の負荷や他町村との負荷比較が可能となった。
 4)ふん尿処理での負荷は、そのほとんどが堆肥盤やスラリータンクで発生したものであった。運搬や散布に使用された燃料や、散布後の揮散による負荷は全体の1〜2%と非常に少な
  かった(表1)。
 5)地域単位LCAの活用法の1つとして、A町の評価結果をもとに、A町政策に関する検証を行なった。個別型バイオガスプラントで発生するエネルギーを自らの経営でのみ利用する場
  合、二酸化炭素に換算した温暖化負荷は熱のみの利用で17t、熱電併給で1tとなり、熱電併給プラントでは温暖化負荷のほぼ全てを削減する効果があることがわかった(表2)。
 6)表2での評価範囲を前提として、施設投資と削減負荷の比較をしたところ、A町でのプラント処理への投資額当たり削減負荷量は、熱電併給のほうがやや増えるとの計算結果が出た
  (表3)。更なる負荷削減のためには、大量に発生する余剰ガスの有効利用策を講じる必要がある。
 7)地域単位LCAの地方自治体政策への活用方法を図3にまとめた。

  


図1 地域単位LCAの分析手順と取得必要なデータ

  


図2 根釧農試プラントにおける投入有機物  当たりメタン生成量 <2004.9〜2005.9>

 

表1 A町のふん尿処理における地域単位LCAの結果

 

表2 個別型バイオガス処理の温暖化負荷

 

表3 バイオガス処理経営のガス利用形態と投資による負荷削減量の違い

 


図3 地域単位LCAの政策への活用方法

  

4.成果の活用面と留意点
 本成果で使用した原単位は、主に道東草地型酪農専業地帯を対象に設定したものであり、それ以外の地域で適用する際は新たに設定し直す必要がある。

5.残された問題とその対応
 1)複数の環境負荷を取り入れた、より高度な経済性・環境影響融合評価手法の開発
 2)捕集したバイオガスの有効利用の方法とそれによる負荷削減効果の解析