「工房製ナチュラルチーズに対する消費者意識と販売戦略」(指導参考事項)

  

                                                      北海道農業研究センター総合研究部農村システム研究室
                                                                   執筆担当者 若林勝史、天野哲郎

 

ナチュラルチーズの消費頻度によって消費者の工房製ナチュラルチーズに対する意識や食ライフスタイルは異なり、ヘビーユーザーに対しては、健康・安全志向や本物・高級志向の追及に加え、地域性を強調して外国産との差別化を図る必要がある。

1 試験目的
 本研究ではチーズの消費動向やナチュラルチーズ市場の特徴を把握するとともに、工房製ナチュラルチーズ(以下、工房製チーズ)に対する消費者の意識を明らかにし、その販売戦略の立案に資する。

2 試験方法
 (1) 統計データをもとにチーズ消費の動向とその要因を明らかにする。また、量販店のPOSデータ(2001/8/27〜2004/9/5の3年間)をもとに、ナチュラルチーズの種類別・価格帯別の販
   売動向を把握し、ナチュラルチーズ市場の特徴を明らかにする。
 (2) 札幌、帯広、東京23区の消費者を対象としたアンケート調査(1,500世帯配布、回答数382、回収率25.5%)をもとに、消費者をナチュラルチーズの消費頻度によってセグメント化すると
   ともに、各セグメントの特徴や工房製チーズに対する消費者意識を明らかにし、工房製チーズの販売戦略を検討する。

3 試験成績

 

 

 

 (1) 1980年代以降のチーズ消費の増加は、食習慣や嗜好などの変化に起因している。しかし、2000年以降は食習慣や嗜好の変化による効果が低下し、チーズの消費が停滞する傾向に
  あることから、変化する消費者ニーズを的確に捉え、適切な商品の提案や販売方法をとる必要性が高まっている。

 (2) POSデータをもとに、工房製チーズが属すると想定される高価格帯品目の動向をみると、北海道では「白カビ」や「フレッシュ」の販売が伸びている。

 (3)国産大手や外国産ナチュラルチーズの消費頻度によって、消費者はヘビーユーザー、ミドルユーザー、国産中心ユーザー、ライトユーザーの4つのセグメントに分類される。このうち、
  ヘビーユーザーほど工房製チーズの購入意向や購入経験があり、その価格受容範囲も高い傾向にあることから、ヘビーユーザーをターゲットとすることでより高い付加価値を得ること
  ができる(表1)。

 (4) 各セグメントに共通して、消費者は価格や身近に購入できる点を重視しているが、工房製チーズはそれらの点での評価が低い。また、各セグメントとも、工房や地域で特徴的な風味
  のチーズ、クセの少ないチーズ、放牧など飼養方法の特徴的な牛乳を原料としたチーズへの要望が多い(表1)。

 (5) 他のチーズとの相対的な評価を検討するため、チーズに関する各セグメントの知覚マップを作成した結果、国産中心ユーザーにおいて工房製チーズは他と大きく異なるものとして評
  価されている。一方、ミドルユーザーでは工房製チーズは国産大手と、ヘビーユーザーでは外国産と評価が類似し、それらと競合する関係にある(図1)。また、各セグメントの潜在的な
  ニーズを把握するため食ライフスタイルを比較した結果、国産中心ユーザーは健康、安全志向が高く、ミドルユーザーではグルメ志向が比較的高い傾向にある。また、ヘビーユーザー
  はグルメ、健康、安全志向が高く、それぞれの食ライフスタイルにあった販売戦略が必要である(表2)。

 

4 試験結果および考察


図2 工房製ナチュラルチーズの販売戦略

 

 セグメントごとに販売戦略を整理すると、(ア) 健康・安全志向の高い国産中心ユーザーについては、健康に配慮したチーズの開発や、衛生管理の徹底、消費者との密接なコミュニケーションによって安心を醸成すること、(イ)ミドルユーザーについては、グルメ志向が高く、また国産大手との差別化が必要なことから、伝統的な製法を取り入れるなど本物・高級志向を追及したり、食事を楽しむグルメ志向の性格に合わせて製品にあったレシピや食材の提供などトータル的な製品提案によって購買を促すことが重要である。(ウ) さらに高付加価値化を実現できるへビーユーザーの獲得にあたっては、安全・安心の追求や本物・高級志向の追求に加え、地域の食材を活用した製品の展開や地元食材とあわせて製品を提案するなど製品や工房の地域性を強調して、外国産との明確な差別化を図る必要がある(図2)。

5 普及指導上の注意事項
 (1) チーズ製造を行なう工房や農家に対して販売戦略立案の参考情報、また指導機関に対してチーズ製造を核とする地域活性化に関わる参考情報として活用できる。
 (2) 外食や小売・卸売業者など実需者のニーズについては別途把握する必要がある。