成績概要書(2006年1月作成)

研究課題:酒造業者のニーズに基づく酒米の品質改善指針
       (多様な米ニーズに対応する品種改良並びに栽培技術の早期確立)

担当部署:中央農試 生産システム部 経営科・水田農業科
協力分担:上川農試 栽培環境科
予算区分:受 託
研究期間: 2004〜2008年度(平成16〜20年度)

1.目 的
 米産地には、食糧法の施行に伴う市場原理の導入により、「売れる米作り」への取り組みが求められており、用途別の需要動向を把握することが急務とされる。そこで、酒造業者のニーズを的確に把握し、本道の酒米産地における生産体制の構築に貢献するとともに、酒造好適米(以下:酒米)の品種・栽培技術の開発に役立てる。

2.方 法
 
1)産業連関分析
 2)道内における清酒生産・消費に関する調査
 3)道内の酒造業者に対するニーズ調査
  「吟風」に対する5段階評価による顧客満足度分析及び酒米の価格受容性調査

3.結果の概要
 
1)米と清酒産業の経済的な関係を検討したところ(表1)、米の生産額の増加は、清酒の生産額に影響を及ぼさないことが示唆された。一方、清酒の生産額の増加は、米の生産額に大
   きな影響を与えることが示唆された。したがって、市場シェアの1/4程度である道産清酒の振興が、酒米をはじめとする北海道米の需要拡大に結びつくものと判断された。
 2)道内の酒造業者における北海道米の使用率は、約23%であった。また、道内の清酒消費量に占める道内の酒造業者のシェアは、24%にすぎなかった。そのため、北海道米を使用
   し、道内の酒造業者が製造した清酒の飲用率は、全体の5%に満たないものと推定された。
 3)酒造業者が判断した吟風の総合評価への貢献度及び満足度がともに高い項目は、「さばけ具合」、「心白」、「味ののり」、「千粒重」の4項目であった(図1)。
   一方、貢献度は高いものの満足度の低い項目は、「着色具合」、「解け具合」、「蛋白」の3項目であった。
 4)現状の吟風について、「解け具合」、「蛋白」、「着色具合」、「供給安定性」、「千粒重」、「心白」の順に改善を要すものと判断された(図2)。なお、吟風の「価格」には、各業者とも満足
   しており、改善の重要性は低いものと判断された。
 5)米粒内におけるアミロース含有率等の内部成分や心白等の内部組織構造が影響する「解け具合」(溶解性)は、「供給の安定性」に対する評価と関連がみられ、年次や産地による品
   質の変動が大きいことが類推される(図3)。そのため、年次や産地ごとのばらつきを小さくするような品質検査及び出荷体制の整備が必要となる。
 6)酒造業者が酒米の取引価格として「安すぎる」と判断する確率は、10,488円/60kgを下回ると、半分以上になることが明らかとなった(図4)。「安い」と判断する確率は、現状の取引価
   格とほぼ同水準である14,421円/60kgを上回ると半分以下となることが明らかとなった。一方、「高い」と判断する確率は、五百万石をはじめとする府県産品種の価格水準である
   18,651円/60kgを上回ると半分以上となることが明らかとなった。「高すぎる」と判断する確率は、山田錦の価格水準に近い23,581円/60kgを上回ると半分以上となることが明らかと
   なった。
 7)酒米の取引価格として「安い」と判断する確率と「高い」と判断する確率とが同等になる価格水準(心理的0点)は、16,243円/60kgであった(図4)。
   したがって、道産の酒米取引価格は、府県産米よりもやや安価な16,000円/60kg程度までならば、引き上げが可能であると考えられた。ただし、その大前提として、品質の改善が不
   可欠となる。
 8)酒米の取引価格の向上に不可欠となる改善を期待される項目について、その要因を表2に整理するとともに、表3に酒米の品質改善に向けた生産現場における対応と農業試験場に
   おける研究の方向をまとめた。

表1 米生産と清酒生産の生産誘発額と域内自給率

資料)平成7年地域産業連関表(経済産業調査会)
   注1)生産誘発額:A産業の生産額増加がB産業の生産に及ぼす影響
   注2)自給率:自給率=1−移入額/域内需要額

 


図1 吟風に対する顧客満足度

  

 
図2 吟風に対する改善の優先度
 注)改善の優先度は図1の中心点からの角度と距離から算出

    


図3「供給安定性」に関する評価と「解け具合」に関する評価
 注)「供給安定性」に満足している業者はなかった。

  

 
図4 酒造好適米の価格受容性

 

表2 改善を期待される項目とその要因

  

表3 酒米の品質改善に向けた生産現場における対応と研究の方向

  

4.成果の活用面と留意点
 
本成果は、「酒米団地」において生産体制を整備する場面で活用するとともに、農業試験場における品種・栽培技術の開発に役立てる。

5.残された問題とその対応
 
高品質な酒米の安定供給に向けた産地体制に関する検討は、引き続き本試験で行う。