成績概要書(2006年1月作成)

研究課題:水稲有機農業の経済的な成立条件
       (有機農業の経営的な成立要因の解明)

担当部署:中央農試 生産システム部 経営科
協力分担:
予算区分:道費(事業)
研究期間:2004年〜2006年度(平成16〜18年度)

  

1.目 的
 消費者の安全志向の高まりを背景に、有機農業を試みる経営が、本道においても増加することが予想される。そのため、経済的な視点から有機農業の成立条件を整理する。

2.方 法
 1)既存統計資料による有機農業の動向解析
 2)水稲有機農業の生産費調査
 3)数理計画法による経営モデルの分析
 4)30年以上有機農業に取り組んできたD経営の変遷をトレース

3.成果の概要
 1)水稲の有機農業は、収量の低下、経営費及び労働時間の増加等の経済面でマイナスとなる特徴をもつとともに、通常よりも高い販売価格といったプラスとなる特徴も併せもつ
   (図1)。
 2)有機農業に要した費用の構成をみると、肥料費は、資材価格の高い有機質肥料を用いるため、2〜3倍割高であった。農業薬剤費は、化学合成農薬を使用しないため、低下してい
   た。諸材料費は、高価な認定資材を用いる場面が多く、割高になる傾向にあった。また、JAS認定に伴う費用や栽培講習等に出席する機会が多いことから、間接的な経費である公
   課諸負担や生産管理費も高かった。労働費は、慣行栽培の10倍以上となる除草作業を始めとした労働時間の増加に伴い、大幅に上昇していた。
   以上を反映して、有機農業の生産費は通常の水準を1.5倍程度上回っていた(表1)。
 3)損益分岐点となる収量水準を求めたところ、現状の価格水準(25,000円/60kg)では、6俵/10a以上(360kg/10a以上)の収量を確保できると、家族労賃を含む生産費を補填するこ
   とが可能になる(表2)。また、慣行米の価格水準に近い15,000円/60kgでは、6.9俵/10a以上(415kg/10a以上)の収量を確保しないと、物財費と雇用労賃を購えないことが判明し
   た。そのため、新たに水稲の有機農業に取り組む際には、価格下落のリスクを考慮して最低でも7俵/10a以上(420kg/10a以上)を実現し、物財費と雇用労賃を補填するとともに、
   所得形成に向けて更なる販売価格と収量の向上に努める必要がある。
 4)現状の価格水準(25,000円/60kg)にあるならば、有機農業の導入に伴う所得増効果を確認できる。ただし、現状では、慣行栽培に比べて著しく増加する除草作業のあり方が有機農
   業の栽培可能面積を規定するものと判断された(表3)。そのため、長期間雇用やOJT等による雇用者の熟練性の向上や高性能な除草機等の開発が重要になる。
 5)有機米が導入される価格水準は、慣行米価格14,000円/60kgレベルの時、20,000円/60kgであった。更に慣行米価格が11,000円/60kgレベルに低下する場合、同価格水準は16,000
   円/60kgに低下した(図2)。すなわち、慣行米価格の下落の下では、より低い価格水準でも有機米の導入が可能となる。
 6)30年以上有機農業に取り組むD経営では、栽培の学習会に積極的に参加し栽培技術の習得に努めることや、販売先に積極的に訪問し営業活動を行うことで、有機米の収益性の向
   上に努めてきた。このように、有機農業に取り組む際は、常に収量と販売価格の安定化に努めることが不可欠となる。また、D経営では、有機農業を経営の中核に据えて、経営規
   模、作物構成、労働編成、機械装備を再編させてきた。このように、有機農業に取り組む際は、一定の目標となる収益を確保できるように、経営内の資源のあり方を随時見直してい
   くことが重要になる。

 

 
図1 有機農業の経済性(水稲)
   資料)環境保全型農業推進農家の経営分析調査結果
       農林水産省:北海道統計・情報事務所

 

表1 水稲有機農業の費用 円・時間/10a

 

表2 価格水準ごとに見た損益分岐点収量

 

表3 除草作業の取組みの相違を反映させた水稲有機農業の経営モデル

 注1)有機米の価格水準は、北海道における有機米の平均価格である25,000円/60kgとした。
 注2)モデル1の固定費は、除草機の償却費を控除した。
 注3)除草の熟練度合い:熟練はD経営の作業能率、未熟練はB経営の作業能率を反映させた。
 注4)除草時期の雇用は、6月下旬と7月上旬の雇用をカウントとした。
 注5)D経営の実態に基づき、経営耕地面積15ha、転作率(27%)及びハウス面積(メロン:20a)を固定して試算した。

 
図2 慣行米価格下落下での価格水準ごとの栽培面積

 

4.成果の活用面と留意点
 新たに水稲の有機農業に取り組む場面で参考にする。

5.残された問題とその対応
 農協をはじめとする有機農業の産地体制(販売対応及び資材購入等)の整備に関する検討が残されている。これに関しては、引き続き本試験で取り組むことにする。