成績概要書(2006年1月作成)

研究課題 : トラクタ搭載型センサを用いた窒素可変追肥による秋まき小麦の圃場内生育変動の軽減対策
       (センシング技術の活用による小麦の収量および品質の向上)

担当部署 : 中央農試 生産システム部 機械科、水田農業科
協力分担 : なし
予算区分 : 道費
研究期間 : 2003〜2005年度 (平成15〜17年度)

 

1.目的
 秋まき小麦の収量や倒伏、子実蛋白含有率の圃場内変動を軽減する一つの手法としてトラクタ搭載型の光学センサを利用した窒素の可変追肥試験を現地圃場で行い、その追肥量や効果を明らかにする。

2.方法
 1)圃場内の生育差に応じた窒素追肥増減量の検討
  (1)試験年次,場所,品種:H13追分町、H14長沼町、H15-17芽室町、全て「ホクシン」を供試
  (2)検討項目:窒素用量試験により幼穂形成期および出穂期の生育差に応じた窒素追肥増減量
  (3)測定項目:各時期の窒素吸収量、収量、子実蛋白含有率

 2)可変追肥実証試験
  (1)試験年次および場所:H15-17,芽室町
  (2)供試機:トラクタ搭載型センサ(YARA社製 N-sensor, 本成績では本センサ出力値をSVと標記する)、スピンナ式可変ブロードキャスタ(散布幅27m)
  (3)試験区:幼穂形成期可変追肥区および定量追肥区(慣行)、出穂期可変追肥区および定量追肥区
  (4)面積:1試験区約40aないし80a
  (5)追肥量の設定:可変追肥区-圃場内の平均的な生育箇所に慣行追肥量を設定し、幼穂形成期ではSVの差1につき1.5-2.0kg/10a、出穂期ではSVの差1につき1.0kg/10a窒素追肥量
    を増減させた。定量追肥区-幼穂形成期6kg/10a,出穂期3kg/10a。なお、両区ともに基肥および起生期にはそれぞれ6kg/10aの窒素施肥を行った。
  (6)検討項目:可変追肥効果として以下の項目を検討。
    ①収量(コンバイン収量センサの1秒毎データ)、②子実蛋白含有率および穂水分(1試験区30ないし32点のサンプリング)

3.成果の概要
 1)幼穂形成期の窒素吸収量と子実窒素吸収量には正の相関があり、幼穂形成期の窒素吸収量の差が概ね子実窒素吸収量の差に反映していた(図1)。
  幼穂形成期の窒素吸収量はSVとの相関が高く、この時期のSV18〜24に対して窒素吸収量は2〜12kg/10aであることから、幼穂形成期のSVの差1は概ね窒素吸収量の差1.5kg/10aに
  相当する(図2)。また、幼穂形成期追肥の施肥効率は最大で80%程度であることから、倒伏の軽減や収量の平準化を目的に、幼穂形成期に可変追肥を行う場合、SVの差1に対して
  2kg/10a程度の窒素増減量を設定することが望ましい。
 2)出穂期におけるSVと子実蛋白含有率には圃場ごとに高い正の相関があり、圃場を問わずSVの差4に対し子実蛋白含有率が概ね1%異なった(図3)。なお、SVの差4はSPADの差8に
  相当する。また、出穂期の追肥による子実蛋白含有率の上昇程度は窒素1kg/10aにつき概ね0.2〜0.3%であった(図4)。これらのことから、子実蛋白含有率の平準化を目的に、出穂期
  に可変追肥を行う場合、SVの差1に対し、1kg/10a程度の窒素増減量を設定することが望ましい。
 3)幼穂形成期の可変追肥では定量追肥に比べて収量が平準化した(図5)。幼穂形成期の可変追肥では3年間の内2年間で倒伏の軽減が図られた。これらのことから、幼穂形成期の可
  変追肥による生育安定化効果が実証された。
 4)出穂期の可変追肥では定量追肥区に比べて全ての区で子実蛋白含有率の平準化が図られた(図6)。
 5)以上のことから、可変追肥は圃場内の倒伏軽減や収量、子実蛋白含有率の平準化に向けた対策として有効である(表1)。


図1 幼穂形成期の窒素吸収量と幼穂形成期以降無窒素区の子実窒素吸収量の関係


図2 SVと窒素吸収量の関係(H13追分,H14中央農試, H15-17芽室)

 


図3出穂期のSVと子実蛋白含有率の関係

 


図4出穂期のSVと窒素追肥量および窒素1kg当たりの子実蛋白含有率上昇程度の関係(H16-17芽室)

 


図5幼穂形成期可変追肥による収量の平準化(H15-17芽室
  注)図中の数字は上段が幼穂形成期の平均窒素追肥量(kg/10a)、下段が平均収量(kg/10a)**有意水準1%で有意差あり

 


図6出穂期可変追肥による子実蛋白含有率の平準化(H15-17芽室)
  注)図中の数字は上段が追肥時の平均窒素追肥量(kg/10a)、下段が平均子実蛋白含有率(%)、*有意水準5%で有意差あり

 

表1 可変追肥の適応時期とその効果

4.成果の活用面と留意点
 1)本技術は現在実施している追肥体系(時期、量)をもとに圃場内の生育ムラを軽減する技術として活用する。その際に、追肥量の増減設定を行う基準点は、該当圃場において平均的
  な生育箇所もしくは平年並みの生育箇所とする。
 2)本技術は圃場内の生育ムラが窒素栄養条件の差に起因する場合に利用でき、排水不良、病害の発生、または微量要素欠乏などによる生育不良箇所には適用しない。

5.残された問題とその対応
 1)年次・圃場により異なる生育量に対応した追肥診断技術
 2)可変追肥の経済性