稲麦大豆に適用できる汎用ロータリシーダを用いた播種技術と導入効果(指導参考事項)
 

  

                                                   北海道農業研究センター 総合研究部 総合研究第1チーム
                                                                        執筆担当者 大下泰生
 

 水稲の乾田直播、小麦、大豆の播種作業に適用できる汎用ロータリシーダは砕土、施肥、播種を1工程で行い、作業幅の拡大と工程の省略により作業時間を短縮できる。開発機の導入により慣行体系に比べて限界規模が6ha拡大し、所得が155万円向上する。

1 試験目的
 米価の大幅な低落と米の生産調整強化のなかで北海道の水田地帯は大規模化と水稲や転作作物の合理的な組み合わせにより、省力的で収益性の高い水田作経営が求められている。このような背景から水稲と主要な転作作物である小麦および大豆による水田輪作体系の構築が重要な課題である。しかし、稲麦大豆による水田輪作では、播種時期に耕起、砕土、播種など複数の作業工程が重なり、規模拡大の制約要因となる。また、小麦や大豆など複数の転作作物の導入にあわせて専用機を導入すれば機械コストも増加する。そこで、水稲(乾田直播)、小麦および大豆の播種作業に汎用的に使用できるロータリシーダを開発し、作業工程の省略と高能率化を図るとともに、開発機の導入による規模拡大効果を検討する。

2 試験方法
 (1) 1工程で砕土、施肥、播種を行し、水稲の乾田直播や小麦、大豆に汎用的に使用できる汎用ロータリシーダ(以下「開発機」)を開発する。
 (2) 開発機と乾田直播用の慣行ロータリシーダ(耕うん幅2m、設定耕深12㎝)の所要動力と砕土性を比較する。場所(土壌):北農研札幌(淡色黒ボク土)
 (3) 開発機および慣行ロータリシーダを用いた作業体系により水稲、小麦および大豆の播種作業を行い、作業能率や供試作物の出芽性を比較する。場所(土壌):北農研札幌(淡色黒
   ボク土)、北農研美唄分室(泥炭土)、北村現地圃場(泥炭土)
 (4) 水田輪作の経営計画モデルを作成し、開発機と慣行の作業体系について、作業能率や作物の収量性をもとに移植水稲、直播水稲、秋まき小麦、春まき小麦および大豆を組み合わ
   せた輪作体系の経営規模限界や収益性を試算する。

3 試験成績

     
              〔水稲乾田直播・小麦播種用〕                     〔大豆播種用(覆土前鎮圧式)〕
                                   図1 汎用ロータリシーダの外観 

 

 表1 汎用ロータリシーダの主要諸元
  

 

     
      図2 開発機と慣行機の動力性能                           図3 開発機と慣行機の砕土性

 

表2 汎用ロータリシーダを用いた新体系と慣行体系の作業時間

 

表3 汎用ロータリシーダの播種性能および供試作物の出芽性

 

表4 新体系および慣行体系における経営規模と所得の試算結果

 注1)上記の体系は、①新体系:開発機を導入した体系、②慣行1:乾田直播に慣行のロータリシーダを用いた体系、
    ③慣行2:水稲は移植のみの体系
   2)転作率は50%とした。償還を完了した自作地を15ha所有し、それ以外は地代1.6万円/1aとした。
    3)開発機と慣行体系の播種機の償却費は4戸の共同利用として算出した。
   4)主な反収は移植水稲540㎏、乾田直播水稲465㎏、秋まき小麦540㎏、春まき小麦430㎏、大豆300㎏とした。
   5)計と内訳が一致しない場合があるのは丸めのためである。

 

4 試験結果及び考察
 (1) 開発機はロータリで砕土しながら施肥・播種を同時に行い、水稲、小麦および大豆の播種に適用できる作業機である。耕うん部は逆転ロータリ方式で、従来のロータリに比べて小径
   の耕うん爪を用いて耕深を5㎝に浅く設定した。また、施肥・播種装置は条間20㎝の水稲・小麦仕様と、覆土前鎮圧方式を用いて条間66㎝で播種する大豆仕様を交換して使用する
   機構とした(図1)。
 (2) 開発機は慣行ロータリシーダ(作業幅2m、耕深12㎝)に対して作業幅が2.8mと広いにもかかわらず、浅耕により所要動力は同等(走行速度0.8m/sで57PS(42kW))であった(図2)。
   また、開発機の平均土塊直径は慣行ロータリシーダに比べて低速域では若干大きいものの高速域では小さくなり、安定した砕土性が得られた(図3)。
 (3) 水稲の乾田直播において、開発機は作業速度0.61m/sで10a当たり作業時間は約15分であり、慣行ロータリシーダに比べて作業時間を28%短縮できた。また、小麦や大豆の播種に
   おいては開発機を用いた体系は砕土と施肥・播種作業を同時に行うことから、慣行体系に比べて作業工程が少なく、作業時間を17〜32%短縮できた(表2)。さらに、開発機は作業
   時間を短縮しても慣行体系と同等の砕土性が得られ、水稲および大豆の出芽率は慣行の作業体系と同等以上であった(表3)。
 (4) 慣行ロータリシーダを開発機に置き換えることにより乾田直播、春まき小麦初冬播きおよび大豆田植え後播種栽培等の作付面積が増加し、転作率が50%の条件で6haの規模拡大
   が可能になると推測された。これは、開発機の導入により作業能率が向上し、作物間の労働競合が緩和されることによるもので、現行の助成金水準5万円を前提にすると149万円の
   所得向上が得られると試算された。また、慣行の移植体系と比較すると、約14haの規模拡大と、348万円の所得向上が予測される(表4)。

5 普及指導上の注意事項
 (1) 開発機は所要動力およびトラクタ装着時の重量バランスを考慮すると70PS(51kW)以上のトラクタが適する。
 (2) 水稲・小麦仕様と大豆仕様の交換および調整には2人で半日程度要する。
 (3) 水稲乾田直播、春まき小麦初冬まき、大豆田植え後播種が導入可能な地域を想定し、小麦、大豆は現行の価格制度および機械購入の50%補助を前提に試算したものである。