「小麦を水分吸収材とした大豆の高品質混合乾燥法」(指導参考事項)
  

 

                                               北海道農業研究センター総合研究部農業機械研究室
                                                                 執筆担当者 井上慶一
   

 フレコンバックや既存の循環式乾燥機を利用して、大豆と乾燥した小麦をそれぞれの水分に応じて混合比を調整して均一に混合して貯留することにより、目標水分へ均一に調製することができる。送風機や火力を必要としないので監視が不要で安全であり、損傷や品質劣化の心配がない。

1 試験目的
 循環式乾燥機を利用した大豆の損傷を低減する新たな乾燥調製技術を開発するため、水分吸収材(小麦)を大豆に直接混入し、混合して貯留しておくだけで乾かし、排出後に水分吸収材と大豆を回転式粒選機で分離、水分吸収材を高温で加熱して再利用する常温混合乾燥技術を開発する。循環式乾燥機のような火力や送風機電力を必要とせず、1粒あたりの乾燥速度は低くても全層にわたって同じ速度で乾燥できる。また水分吸収材を高温で乾かすため熱効率が上がり、省エネ、低コストかつ高品質な乾燥方法となることが期待される。


2 試験方法
 (1) 大豆(ユキホマレ、水分20.5%、22.5%)を650mLの密閉した容器に4種類の水分吸収材(籾殻、吸水性高分子ポリマーBCN、APG、多孔質吸水性セルロース、タピオカパール、小麦)と
   体積混合比でほぼ1/2の割合(籾殻の場合は1.0〜1.8)で混合し、恒温器内の一定温度で保存し、それぞれの経時的な水分変化を調べ、水分吸収能力を比較した。
 (2) 循環式乾燥機(容量25石、4.51m3、2.8t)に大豆(ユキホマレ、ツルムスメ、いわいくろ、水分15〜20%)と乾燥した小麦(ホクシン、キタノカオリ、水分11〜12%)を混ぜながら張り込み、
   投入後2時間ほど循環して混合した後、それぞれの経時的な水分変化を測定し、混合乾燥モデルの推定値と比較した。
 (3) 循環式乾燥機を2台並べて、1台は混合貯留タンク用、もう1台は、水分吸収材の小麦乾燥用に用い、貯留タンクの排出ダクトに大豆用回転式粒選器(サタケ製、スクリーン幅5mm)を
   接続して、小麦と大豆の分離を行い、分離した小麦は水分吸収材の乾燥用循環式乾燥機の上部から搬送ブロアを介して投入し、再度乾燥する。分離した大豆は、混合貯留タンク用
   乾燥機上部から再投入する装置を作って、大豆(ユキホマレ、ツルムスメ、いわいくろ)の乾燥試験を行い、搬送速度、混合割合の変化、乾燥経過、損傷粒などを調べた。


3 試験成績

       
図1 密封した容器中での大豆(ユキホマレ、水分20.5%)と        図2 密封した容器中での水分吸収資材(BCN、APG、
 籾殻(水分4%)を混合比を1.0〜1.8と変えて混合したとき          多孔質セルロース、小麦、混合比0.5)での大豆(ユキホマレ)
 の水分変化(平均外気気温15℃)                      と水分吸収資材の水分変化

 

 

             
図3 ユキホマレ水分19.6%と小麦11.6%を循環式乾燥機          図4 ツルムスメ水分14.4%と小麦水分12.0%を循環式
  内(平均気温12℃)で混合貯留したときの水分変化             乾燥機内(平均気温2℃)で混合貯留したときの
  (実線は混合乾燥モデルによる計算値)                     両者の水分と標準偏差(5点)

 

            
図5 いわいくろ水分15.6%と小麦水分12.0%を循環式            図6 バッチ方式での混合物の平衡水分を14.5%にする          
 乾燥機内(平均気温2℃)で混合貯留したときの両              ための大豆初期水分に対する小麦(初期水分12%)
 者の水分と標準偏差(5点)                            の体積混合比(一点鎖線)と8時間経過後の大豆水分
                                            (実線)の計算値(平均気温15℃で計算)

  

               
図7 循環式乾燥機内での経時的水分のバラツキ             図8 循環式乾燥機内での混合比の経時的バラツキ

 

表1 循環式乾燥機内で乾燥小麦との混合貯留による大豆乾燥試験の実験

 

4 試験結果及び考察
 (1) 籾殻では混合比が増えるに従い大豆の水分は若干下がったが、混合比1.0と1.8でも1%以内であった。初めの5時間程で平衡水分までの約80%の水分減少があるが水分除去量が少
  なく混合比1.5でも3%の水分減少であった(図1)。水分吸収資材の中で吸水性高分子ポリマーのBCN(真密度1270kg/m3、見かけ密度648 kg/m3)と小麦(真密度1480 kg/m3、見かけ
  密度836 kg/m3)の場合は22時間ほどで3%程度の水分低下があったが、セルロース、APG(スポンジタイプBCN)の場合は2%以下で、水分吸収量はほぼ見かけ密度に比例した(図2)。
  タピオカパールでは開始後4時間で平均0.6%/hの乾減率で27時間後に14.7%に低下したが複数回の利用で割れが多くなり、材料としては適さないと判断された。小麦は見かけ密度も高
  く、23時間でBCN3.3%と同程度の3.7%の水分減少があり、水分吸収材として有効と考えられた。
 (2) 大豆(ユキホマレ、864kg、水分19.6%)と乾燥した小麦(キタノカオリ、2345kg、水分11.6%)を体積混合比2.36で平均気温12℃で混合貯留した試験では混合51時間後では、大豆の水分
  15.2±0.2%、小麦12.8±0.1%のほぼ均一な水分となった(表1)。循環時間が4時間以内であったため、機械的損傷はほとんど見られず、0.27%であった。混合乾燥モデルの水分変化の
  推定値と実験結果はほぼ等しかった(図3)。
 (3) ツルムスメといわいくろの混合乾燥では、大豆の子実水分がそれぞれ14.4%、15.6%と低水分であったが、図4、図5のような水分変化をたどり、それぞれ13.1%、14.4%の均一な水分に
  なった。平均温度が4℃以下で乾燥速度はユキホマレの12℃のときより低下した。循環時間が6時間を越えて試験したため、損傷粒の割合が若干多くなり、ツルムスメで1.4%、いわいく
  ろで0.6%発生した。損傷粒は循環頻度に比例して増大するので循環は大豆と小麦が混合できる最小限の時間、2パスくらいに留める。
 (4) 大豆用回転式粒選器を用いて仕上がった大豆を小麦と分離することができた。分離処理能力は大豆の吐出し量5.86kg/min、小麦は18kg/minで乾燥機のバケットコンベアの排出能
  力82kg/minの1/4以下である。
 (5) 混合乾燥モデルの計算結果は実験結果とほぼ近い値であり、これより混合物の平衡水分を14.5%にするための大豆初期水分に対する小麦(初期水分12%)の体積混合比と8時間経
  過後の大豆水分を推定するグラフを作成した(図6)。また、エクセルの計算式によって任意の条件で混合比を算出できるようにした。水分10%の小麦を使うと混合比は12%のときの約
  半分にすることができる(図省略)。
 (6)循環しながらサンプリングした大豆の水分は、図7のように0.25%以内のバラツキ(標準偏差)に抑えられ、ほぼ均一な水分に調製できた。
 (7)循環しながらサンプリングした小麦の混合比は図8のように投入比に近く、始めに2〜4時間程度循環することによりほぼ均一に混ざると考えられる。

5 普及指導上の注意事項  
 (1) 通常は水分が18%以下の大豆の仕上げ乾燥に適する。それ以上の場合には乾燥機の外気通風だけで18%程度に乾かしてから本方式を使うようにする。しかし、水分が高い場合に
  迅速に18%以下に水分低下を図り、混合物内の湿度を80%以下にして腐敗、発酵を防止して品質保持を図るための応急処置としても使える。
 (2) 小麦を40〜50℃の高温熱風で乾かすため、乾燥時間が短く、バーナの熱効率が高まり、石油の消費量を減らすことができる。
 (3) 損傷粒は循環頻度に比例して増大するので、循環は大豆と小麦が混合できる2〜4時間前後の時間にする。
 (4) 使用する小麦は規格外品等を利用することでコストを下げられる。
 (5) 循環型で混合乾燥する方法については特許申請中であるが、乾燥小麦を大豆に混ぜて乾かす方法は自由に利用できる。