「ばれいしょ加工時のアクリルアミド生成に関わる要因」(研究参考事項)

  

                                                 農研機構・北海道農業研究センター・畑作研究部・品質制御研究チーム、ばれいしょ育種研究室

 8℃未満の貯蔵温度域で、生イモ中の還元糖量が顕著に増加し、チップカラーが悪化、チップ中のアクリルアミド量も増加することを明らかにした。また、アクリルアミド生成に最も強く関与する生イモ中の成分は還元糖であることを示した。

1 試験目的
 炭水化物を多く含む食材を油加工など高温で加熱すると、発がん性の疑われているアクリルアミド(AA)が生成するとの報告が2002年になされ、ポテトチップなどばれいしょ加工食品に高いレベルで含まれる場合があることが報告された。日本のチップ原料は、トヨシロ等の加工用品種を秋?翌春までは北海道産を貯蔵して使用、その後の端境期は暖地産から順次北上して使用している。本研究では、品種や貯蔵条件による原料ばれいしょ中の成分の違いが、チップ加工時のAA生成に与える影響を調べることを目的とした。

2 試験方法
 (1)材料および貯蔵:当部圃場にて栽培したトヨシロ、スノーデン、らんらんチップ、男爵薯、インカのめざめを用いた。収穫後、2週間18℃のキュアリング処理を行い、100〜130 gの塊茎
   を選別して、温度2, 6, 8, 10, 18℃(湿度80%、暗黒)で貯蔵し経時的にサンプリングした(3塊茎4反復)。塊茎を縦2分割し、半分は直ちにチップ加工後、カラーとAA測定に供し、残り半分
   は各種成分析に用いた。
 (2)加工および分析:イモを1.3 mm厚にスライスし、180℃ 90〜95秒間フライ後、カラーを色差計で測定した。AAはチップより水抽出しカラムにて精製、臭素化後、GC-MS法にて分析し
   た。生イモの糖(フラクトース、グルコース、スクロース)、遊離アミノ酸(アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸)は、凍結サンプルよりエタノール抽出し、HPLC法にて
   分析した。

3 試験成績


図1 貯蔵温度が塊茎中の糖量とチップ中のAA量に与える影響(貯蔵18週目)。

 


図2 生イモのフラクトース(左)、アスパラギン(右)とチップ中のAA量。
   5品種5温度貯蔵0日〜18週間、n = 387、***: P < 0.001。

 


図3 貯蔵4週目でのチップカラー(上:18℃、下:2℃、トヨシロ)。

 

4 試験結果及び考察
 (1)貯蔵温度の影響:いずれの品種においても、2週目以降、8℃未満の温度域で生イモ中の還元糖量の増加がみられ、チップ中のAA量も増加した(図1に18週目を示す)。「インカのめ
   ざめ」では、18℃貯蔵18週目においてショ糖量が高くなったが、チップ中のAA量は他の品種同様低かった(図1)。遊離アミノ酸量は貯蔵温度による顕著な違いはみられなかった。
 (2)AA量に及ぼす生イモの成分要因:チップ中のAA量は、生イモ中の各成分のうち、還元糖量の変化ともっともよく呼応して変化した。相関係数(R2)はフラクトース0.687(図2)、グルコー
   ス0.699、スクロース0.240 (n = 387)となり、還元糖で高かった。一方、遊離アミノ酸は、有意な相関が見られない(Asn(図2)、Glu、Gln)か、低かった(Asp)。これらから、AA生成に最も強
   く関与する生イモ成分は、還元糖であることがわかった。また、モデル実験では、スクロースもAA生成に関与できるとされているが、生イモからのチップ加工においては関与は低い
   と示唆された。
 (3)チップカラーL*(明度)はAA量と高い相関が認められた(R2 = 0.871, P < 0.001)。8℃未満の温度域での貯蔵塊茎から加工されたチップは、いずれの品種においてもL* < 54と暗褐色
   を呈した(図3下に2℃4週貯蔵のトヨシロを示す)。これらから、従来のカラーでのチップ加工用系統の選抜法が、AA低生成型系統の選抜においても有効であること、また、メーカーに
   おけるチップ製造ラインでの不良カラーチップの除去が、製品への高AAチップ混入を防ぐ上で有効であることが示された。

5 普及指導上の注意事項
 (1)これらの成果は、加工用ばれいしょの育種開発の基礎知見、チップ加工時の原料管理の基礎知見となる。
 (2)本研究における8℃未満の温度域での貯蔵は、AA生成の要因成分を解明するための手法であり、通常、この温度域で貯蔵された塊茎はチップ加工に用いられることはない。