成績概要書(2006年1月作成)
課題分類:
研究課題:北見・遠紋地区におけるてんさいの低収・低糖分の要因解明と改善対策

担当部署:北見農試 技術体系化チーム、網走支庁北見地区農業改良普及センター、湧別地区
       農業改良普及センター、遠軽地区農業改良普及センター
予算区分:農政部事業
研究期間:2003〜2005年度(平成15〜17年度)

   

1.背景・目的
 網走支庁管内は、十勝支庁管内と並んで北海道のてんさい栽培の主要地帯であり、その生産性と収量安定性は高い。しかし、網走支庁管内において、地区による収量・糖分の地域間差は近年、拡大しており、更に北見・遠紋地区では生育中期頃からてんさい地上部の黄化現象が多くみられ、問題となっていた。また、テンサイそう根病(以下そう根病)の発生も目立ち、近年の低収の要因として、そう根病の発生、排水性不良など土壌の要因が大きく関与しているものと考えられる。これらのことから、北見・遠紋地区でのてんさいの低収・低糖分について要因解明を進めるとともに、そう根病抵抗性品種の導入・排水性改善技術の効果等を実証し、早急に改善対策を講じる。

2.方法
 1)北見・遠紋(西紋・東紋)地区の低収・低糖分の実態:各地区のてんさいの根重、根中糖分の推移を作付面積による加重平均によって算出し、比較する。
 2)気象及び土壌要因から見た網走地方のてんさい収量変動:アメダスによる気象測定値と各市町村のてんさいの根重、根中糖分の関係を調査する。また、北海道土壌区一覧の生産
   力可能性分級式により地区間の特性を比較、検討する。
 3)てんさいの黄化症状実態調査
  (1)黄化圃場の実態調査:目視によりてんさい作付圃場の黄化程度を調査し、黄化圃場の 発生実態を調査する。
  (2)黄化要因の解明:北見・遠紋地区の黄化が認められた圃場で健全株及び黄化株周辺の各1地点ずつの病害虫の発生(そう根病については各5株ずつの細根、側根のウイルスの
    有無)及び土壌理化学性を調査した。
  (3)リモートセンシングによる黄化程度区分図の作成:スポット5号の衛星データ(HRGセンサ、地上分解能10m、網走管内T町、南北14.5km、東西10.9km、平成15年9月1日撮影)とてん
    さい作付圃場のそう根病の発生の有無、根中糖分の関係を調査した。
  4)改善対策試験
  (1)てんさいそう根病抵抗性導入試験
    ア.供試品種:罹病性品種「スコーネ」、抵抗性品種「モリーノ」、「きたさやか」、「ユキヒノデ」、「フルーデンR」(平成16〜17年)、「リゾマックス」(平成17年)、
    イ.耕種概要:3反復(平成17年は6反復)乱塊法、1区14.4㎡(平成17年は7.2㎡)
  (2)排水性改善および表土深拡大の効果確認試験
    ア.プラウ式有材心土改良耕(バーク、60cm間隔):低地土3カ所、褐色森林土1カ所
    イ.幅広型心土破砕(55〜70cm間隔):低地土3カ所、褐色森林土1カ所

3.成果の概要
 1)網走支庁管内のてんさいの収量は地区による差が大きく、北見地区、遠紋地区では平成2年以降、根重は低下傾向にあり、また、根中糖分は平成6年以降大きく低下している。
 2)移植後の気温が高いと根重は増加し、5〜7月に降雨が多いと根重が低下する傾向にある。7〜10月上旬の気温が高いと根中糖分が低下し、9月の降水量が多いと根中糖分が低下
  する傾向にある。斜網地区は北見・遠紋地区より気象の負の影響を受けづらいが、北見・遠紋地区は干湿害を受けやすく、表土が薄く、傾斜が急な圃場が多い。
 3)黄化は、そう根病、土壌環境の不良、ハダニが単独あるいは複合して起こっていた。
  そう根病は、要因調査圃場の75%で認められ、過去の調査事例と比較して網走支庁管内のそう根病汚染は広がっている。
 4)土壌理化学性が悪かったのは全体の26%であり、pH、表土厚不足、干湿害による。微・細粒質な圃場で練り返しによる排水不良があり、人為的な要因も認められた。
 5)可視波長域、特に緑の輝度値が高く黄化の著しいと推定される圃場は、そう根病発生圃場の分布とほぼ一致し、黄化程度が激しい圃場ほど根中糖分の低下が著かった。
 6)そう根病発病圃場におけるそう根病抵抗性品種の導入効果は明らかであるが発病が軽微な圃場では、品種により経済的な有利性が発揮されない場合がある。そう根病の発病程度
  は細根及び側根におけるウイルス検出割合が有効な尺度となることが示唆され、即ち側根でウイルスが検出された区では確実に罹病性品種の糖分、糖量を上回り、細根のウイルス
  検出率が80%以上の区でも、概ね抵抗性品種の優位性が発揮された。
 7)プラウ式有材心土改良耕による土壌改善効果は比較的安定しており、根重、糖量が増加した圃場が多かったが、T/R比が増加した圃場では根中糖分が低下することがあり、施工後
  の生育によっては施肥量の見直しが必要と考えられた。幅広心土破砕の根重への効果は有効土層(腐植を含む土層)が厚いほど高かった。収量が低下した圃場では、肥沃度の劣る
  下層土の作土への混入による影響が考えられるので、幅広心土破砕の施工は有機物施用と深耕などの併用が必要と考えられた。
 8)そう根病発生拡大に対する認識が深まり、遠紋・北見地区の抵抗性品種の導入面積は、平成13年の2.7%に対して平成16年には22.4%と徐々に増加している。天候も比較的良好で
  あったため、同地区の根重、根中糖分は平成15年以降、回復傾向にある。

    

           
図1.地区別のてんさい生産性の推移                                       図2.てんさい圃場の黄化要因

 

                     
図3.圃場発病程度(エライザ検定結果)と抵抗性品種の収量性との関係                   図4.作土深・土壌硬度と収量の関係

  


図5 黄化症状並びに低収・低糖分の総合改善策フローチャート

 

4.成果の活用面と留意点
 1)てんさいの低収、低糖分地域の要因解明と対策に用いる
 2)本技術は網走支庁管内の実態調査に基づいたものである

5.残された問題とその対応
 1)根重、根中糖分が一般品種並に優れるそう根病抵抗性品種の開発・導入