成績概要書(2007年1月作成)

研究課題:脳内接種によるBSE感染牛の臨床症状
       (脳内接種法によるBSE実験感染牛を用いた生前診断手法の検討)

担当部署:道立畜試 基盤研究部 遺伝子工学科、感染予防科、病態生理科
協力分担:農研機構・動物衛生研究所・プリオン病研究センター、国立感染症研究所
予算区分:外部資金(動物衛生研究所プロジェクト)
研究期間:2004〜2007年度(平成16〜19年度)

 

1.目的
 牛海綿状脳症(BSE)は、人の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病との関連が示唆されているなど公衆衛生上の大きな問題となっている。我が国ではこれまでに31例(平成18年12月現在)のBSE患畜が確認されているが、すべて死亡またはと殺後に診断されており、生前にBSEの発症を示す異常行動等は確認されていない。本研究は、BSE脳内接種牛を用い、BSEの臨床症状を解明し、その生前診断法について検討する。

2.方法
 1)供試動物:BSE脳内接種牛のうち、平成18年8月までに発症し、病理解剖した9頭
 2)接種方法:2〜4ヶ月齢時に国内BSE2例および英国1例の10%脳乳剤を脳内接種
 3)臨床症状検査:姿勢・行動の変化、歩様・走行姿勢、聴覚刺激、視覚刺激および接触の各検査を、発症予測時期より毎週実施した(表1)

3.成果の概要
 1)BSEを疑う臨床症状が、脳内接種18ヶ月以降に現れた(表2)。
 2)臨床症状検査により以下の症状が見られた。
  (1)姿勢・行動の変化では、頭部を下げる姿勢(図1)などが9頭すべてに見られた
  (2)歩様・走行姿勢では、速歩の多用や硬い後肢の動きが8頭に見られた。
  (3)視覚刺激検査では、クリップボードの動き(図2)に対して後退りや頭部を振るなどの過剰反応が7頭に見られ
  (4)聴覚刺激検査では、拍手音および金属音に対し頭部を振るなどの過剰反応(図3)が8頭に見られた。
  (5)接触検査では、症状が進行した牛の1頭に頚部、肩部、胸部をスティックで触ると激しく躯体を動かす反応があった。
  (6)その他、頻繁に舌を鼻腔まで入れて舐めるなどの行動を見せる牛がいた。
 3)これらの臨床症状は、臨床変化の発見から解剖まで2〜6ヶ月間、漸進的に推移し、とくに起立姿勢の異常と後肢の運動失調などが進行性に観察された。解剖時には9頭中4頭が起
  立不能であった(1頭は転倒による筋断裂)。また臨床症状の進行に伴い、飼料摂取量が減退する例もあった。
 4)今回観察された症状は、諸外国のBSE野外発生例の症状と酷似しており、BSEの臨床症状を再現したと思われる。野外例に多く見られる接触への過剰反応を示した牛は少なく、人
  への攻撃性を示す牛はみられないなどの違いが見られた。

以上のように、脳内接種法によりBSE感染牛を作出し、国内で初めてBSEの症状を確認した。姿勢・歩様の異常および音・視覚刺激反応を用いた検査は、BSE発症牛の発見に有用である。

  

表1 BSEの臨床症状検査

表2 脳内接種によるBSE感染牛の臨床症状の経過

 

ああああ
図1 頭を下げる異常姿勢                         図2 クリップボードによる視覚刺激検査

 

図3 拍手音による聴覚刺激に対し、首を振って過剰に反応

 

4. 成果の活用面と留意点
 臨床所見によりBSE発症牛の発見が可能であるが、BSEの診断にはウエスタンブロット法や免疫組織化学検査などによる異常プリオン蛋白質の検出が必要である。

5.残された問題とその対応
 1)臨床症状と脳内のプリオン蓄積や病理所見との関連。
 2)血液等を用いたBSE生前診断法の開発。