成績概要書(2007年1月作成)

研究課題:スラリー連用条件下の火山灰草地における窒素の収支
      
(予算課題名:寒冷寡照条件の畜産由来有機性資源の循環利用に伴う環境負荷物質の動態解明と
      環境負荷低減技術の開発)

担当部署:道立根釧農試 研究部 草地環境科
協力分担:
予算区分:指定試験
研究期間:1998〜2006年度(平成10〜18年度)

1.目的
 火山灰土壌を充填したチモシー単播採草地ライシメーターを,乳牛ふん尿スラリーまたは化学肥料連用条件で6年間管理,窒素の浸透流出等を観測し,スラリーの循環利用に伴う窒素動態解明の資とする.

2.方法
 
供試施設:1区面積4m2(2m×2m)×深さ1.5m,16槽.充填土壌は根釧農試圃場(黒色火山性土(普通黒ボク土))より採取(0-60cm:AP,Km-1f,Ma-f1A層の混層,
        60-120cm:Ma-f1C,Ma-g,Ma-h,Ma-i層の混層,120-150cm:砂〜砂利).自然降雨条件
 供試草地:チモシー「ノサップ」単播草地(1999年5月造成).
 調査期間:2001〜2006年度(2000年9月〜2006年8月)および2007年度(2006年9〜10月)
 施肥処理:5(表1).化学肥料(硫安,過石,硫加)は春:1番草収穫後=2:1で分施.反復数2〜3.
      表1 施肥処理(2001〜2006年度)
      
 調査項目:牧草収量,養分吸収量,浸透水および表面流出水の水量・水質(全窒素,硝酸態窒素),表層土壌 (0-10cm,2006年11月15日採取)中全窒素含量

3.結果の概要
1) 化学肥料換算で北海道施肥標準量にほぼ相当する窒素が施用されたSN45区の年間のスラリー施用量は,2001〜2003年度14ton/10a,2004年度以降18〜29ton/10aと大量であった
 (表1).
2) SN45区における牧草の乾物収量および養分吸収量はstd区と同等以上の水準で推移し,6年間平均でstd区を3割上回った(図1).SN30区では連用5年目以降,std区と同等以上の乾物
 収量および養分吸収量を示し,6年間平均でも同等であった.
3) 観測期間中の浸透水量は降水量の69〜82%に相当し,年間浸透水量は降水量に連動した.表面流出は2003年以降顕著に減少し,全観測期間の表面流出水量は降水量の1%前後で
 あった(図2).
4) 浸透水中の全窒素濃度は,2001年度にはSN45区で最高5mgN/L,年間加重平均濃度で1.2mgN/Lの値を示したが,2002年以降,おおむね1mgN/L未満で推移した(図3).浸透水中の
 硝酸態窒素濃度は最高2mgN/Lであり,概して0.5mgN/L未満の値を示した.
5) 窒素の年間浸透量は年々減少し,その6年間平均値は10a当たり0.18〜0.26kgであった.また,施肥処理の影響は認められなかった(図4,表2).
6) 施用窒素の収支をNF区との差から求めたところ,施用された窒素のほとんどは収穫された牧草地上部,アンモニア揮散および表層0〜10cm土層中の増加量で説明できた.また,スラ
 リー施用量の増加とともに表層土壌に蓄積する窒素量が顕著に増加した(表2).
7) 実際の場面ではカリに規制され,スラリーの施用上限量はSN15区程度になることが多いが,この場合,窒素等を化学肥料で補給しても環境上問題ないと推察された.
8) 以上から,スラリーを6年間連用したチモシー採草地のライシメータ試験(火山灰土壌)における窒素収支および窒素浸透量からみると,「ふん尿主体施肥設計法」での施肥管理により,
 牧草生産性の確保と環境負荷低減が両立できることを明らかにした.



 


 

     

        図3 浸透水中全窒素,硝酸態窒素および
            表面流出水中全窒素濃度の推移(2001〜2006年度)

 

表2 施用窒素の収支1)(kgN/10a,2000年9月〜2006年10月)

 

4.成果の活用面と留意点
1) 「ふん尿主体施肥」指導現場における参考資料になる.
2) 本成績は,根釧地方の火山灰土壌のチモシー単播採草地で実施した.
3) 実際のスラリー施用に際しては,スラリーの窒素,リン酸,カリ含量に基づく施用限界量を遵守すること.

5.残された問題とその対応
 より長期のスラリー連用条件下における環境影響と土壌蓄積養分の動態解明