成績概要書 (2007年1月作成)
北海道>生産環境>土壌肥料
研究課題:有機物等の窒素評価に基づくてんさいの窒素施肥対応 |
1.目的
てんさいの窒素施肥量適正化のため、有機物等の窒素評価に基づいた新たな窒素施肥対応を組み立てる。
2.方法
1)試験年次:2003〜2006年。
2)試験地:十勝管内(十勝中央部・十勝山麓・十勝沿海)にてのべ38カ所(十勝農試場内の試験も含む)、網走管内にてのべ18カ所、道央にてのべ4カ所。
3)試験区設定:基本的に試験地ごとに農家慣行区に対して2〜10kg/10aの窒素減肥区を設定した。これに加え、一部の試験地では窒素施肥量3〜8水準の用量試験を設定した。
4)調査項目:有機物投入量、緑肥作付時の窒素施肥量、春季(4月)の無機態窒素量、てんさいの窒素施肥量、てんさいの窒素吸収量、根重、糖分、糖量。
5)有機物等の給源に基づくNスコアの設定:北海道施肥ガイドを基に、表1のように設定した。
3.結果の概要
1) 既往の研究と本研究で得たデータから、てんさいの最大糖量を得ることと、地下水中硝酸性窒素濃度を10mg/L以下にすることを両立させる最適窒素吸収量を23〜25kg/10aと設定し
た。
2)窒素供給量(春季の0-60cm硝酸態窒素量と施肥窒素量の合計)とてんさいの窒素吸収量の関係を検討したところ(図1)、窒素供給量は、てんさいの窒素吸収量を有意に説明し得るもの
であった。しかし、その関係は有機物施用状況や気象・土壌条件によって左右されることが明らかとなり、特に有機物からの窒素供給を評価することの重要性が示唆された。
3)春季における畑土壌の無機態窒素量(0-100cm)は0-75kg/10aと変異が大きく、平均値は12.9 kg/10aであり、堆肥や家畜糞尿、そして緑肥時の窒素多肥は春季の無機態窒素量に大き
く影響を及ぼすものと考えられた。
4)春季の0-100cm無機態窒素量は、回帰式①y1=1.1x1+3.8(y1;春季の0-100cm無機態窒素量(kg/10a)、x1;春季の0-60cm硝酸態窒素量(kg/10a))によって推定可能であった(r=0.95**)。
5)窒素施肥量と春以降のNスコアと春季の0-100cm無機態窒素量の合計(x2,kg/10a)はてんさいの窒素吸収量(y2,kg/10a)と密接な正の相関関係(r=0.67**,n=138)があり、回帰式②
y2=0.75x2+5.0によっててんさいの窒素吸収量(y2)を推定できることが明らかになった(図2)。
6)窒素施肥量と前作(主に小麦)収穫後から施肥前までのNスコアの合計(x3,kg/10a)はてんさいの窒素吸収量(y3,kg/10a)と極めて密接な正の相関関係(r=0.75**,n=140)があり、回帰式
③y3=0.89x3+4.9によっててんさいの窒素吸収量(y3)を推定できることが明らかになった(図2)。
7)回帰式②のy2に最適窒素吸収量23-25kg/10aを代入し、さらに回帰式①を用いてx2を{窒素施肥量+春以降のNスコア+1.1×(0-60cm硝酸態窒素量)+3.8}として回帰式②を解くと、{窒素施
肥量+春以降のNスコア+1.1×(0-60cm硝酸態窒素量)}=20〜22(式④)が得られ、式④に基づき、有機物施用等の履歴が分からない場合の窒素施肥対応を組み立てた(図3)。同様に回帰
式③のy3に最適窒素吸収量23-25kg/10aを代入して解くと、(窒素施肥量+前作収穫後から施肥前までのNスコア)=20〜22(式⑤)が得られ、式⑤に基づき、有機物施用等の履歴が分かる
場合の窒素施肥対応を組み立てた(図3)。
![]() |
図1 窒素供給量(春季の0-60cm硝酸態窒素量と窒素施肥量の合計)と ○:有機物投入なし |
図2 窒素吸収量と窒素施肥量+春以降のNスコア+0-100cm無機態窒素量の関係(左図)および窒素吸収量と窒素
施肥量+前作収穫後から施肥前までのNスコアの関係(右図)(×;有機物多量施用(n=18),●;根腐病・褐斑病激発
(n=2)または土壌物理性不良(n=4)または湿害(十勝沿海2006年, n=7),○;上記以外。)
図3 Nスコアに基づくてんさいの窒素施肥対応
4.成果の活用面と留意点
本技術は有機物等の投入を量的に評価するものであり、窒素施肥量の適正化に有効である。
5.残された問題とその対応
有機物等の肥料的評価が今後さらに明らかになれば、本技術のさらなる精度向上が期待される。