成績概要書(2007年1月作成)
課題分類: 研究課題:野菜に発生する病原ウイルスの遺伝子解析と診断技術 (植物病原ウイルス診断技術開発のためのウイルス遺伝子の単離と解析) 担当部署 中央農試 基盤研究部 遺伝子工学科 |
1.背景・目的
野菜に発生する情報の乏しいウイルス病については、旧来の手法ではウイルスの検出が困難なため、現地から診断やウイルスフリー化への要望があってもそれらに取り組むことは不可能であった。野菜の病原ウイルスについて、ポティウイルス科の特異的配列を用いて増幅した遺伝子の配列を解析し、遺伝子診断技術の開発を行う。
2.方法
1)供試材料
わけぎの条斑症状株、にんにくのモザイク症状株と粗精製粒子およびトマト黄化えそウイルス(TSWV)について供試した。
2)ポティウイルス科特異的プライマーにより増幅した病原ウイルス遺伝子の解析
RNAはSDS-フェノール法で抽出した。cDNAはinvitorogen社のSuperScriptIIを用い、Oligo-dTプライマーで合成した。PCRはTAKARA社のLA-Taqを使用し、Gibbsら(2003)により開発されたポティウイルス科特異的プライマーを用いて行った(図1)。cDNAはプロメガ社のpGEM-T-easyを用いてクローニングし、遺伝子配列を解析した後、(独)国立遺伝学研究所日本DNAデータバンクに登録されている病原ウイルスの遺伝子情報と比較した。
3)遺伝子情報に基づいた病原ウイルスの検出
RNA抽出、cDNA合成は2)に同じ。PCRはTAKARA社のEX-Taqを使用した。
また、TSWVについては栄研化学社のRNA増幅試薬キット(RT-LAMP)を用いて検出を行った。
3.成果の概要
1)わけぎ、にんにくからポティウイルス科特異的プライマーを用いてRT-PCRを行い約1600〜2000bpの増幅産物を得た。この遺伝子配列を解析したところ、わけぎの増幅産物は既知のネギ萎縮ウイルス(SYSV)、にんにくの2つの増幅産物は既知のリークイエローストライプウイルス(LYSV)とタマネギ萎縮ウイルス(OYDV)の外被蛋白質遺伝子とアミノ酸配列相同性が99〜100%と高かった。以上のことから、わけぎからSYSVが検出され、にんにくからはLYSVとOYDVが共に検出されたことが明らかとなった。
2)解析した遺伝子配列を基にSYSV、LYSV、OYDVそれぞれに特異的プライマーを設計し、RT-PCR法によるウイルス検出を試みたところ250〜350bpのそれぞれ一本の明瞭な増幅断片が得られ、各ウイルスを特異的に検出することできた(図2、図3)。
3)野菜等に発生して問題となっているTSWVについて遺伝子配列を参考にプライマーを設計し、RT-LAMP法による検出を行ったところ遺伝子の増幅が認められた。
4)従来の手法では判別不能であった病原ウイルスについて、その遺伝子配列を解析し、それを基に様々な遺伝子増幅法を用いて病原ウイルスの検出が可能となった(図4)。
A種 B種![]() ![]() C種 RT-PCR法による遺伝子増幅
図1 ポティウイルス科特異的プライマー
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![]() |
:外被蛋白質領域 :OYDVの特異的プライマーの位置 |
400bp
200bp
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M OYDV LYSV SYSV![]() 図3 OYDV、LYSVおよびSYSV 特異的プライマーによる各ウイルスの検出 M:200bp ラダー |
![]() 図4 遺伝子解析を利用したウイルス診断方法 |
4.成果の活用面と留意点
1)ポティウイルス科病原ウイルスの検出方法はわけぎ・にんにく以外の野菜でもポティウイルス科検出に広く応用が可能である。
2)ウイルスを同定するためには、接種による病徴の再現性とウイルスの再分離、ウイルスの諸性質等の検討が必要である。
5.残された問題とその対応
1)ポティウイルス科以外のウイルス解析・検出
2)知見の少ない球根花きウイルスの検出方法