水稲新品種候補 「上育453号」の摘録

1.特性一覧表                                  北海道立上川農業試験場
                                                    水稲育種指定試験地

系統名 上育453号 交配組合せ 札系 96118 1) / 上育427号  2)
 特 性 長所 短所
1. アミロース含有率が適度に低く、極良食味である 1. 耐冷性が対照品種に比べやや劣る
2. 収量性が対照品種に比べ高い 2. 耐倒伏性がやや劣る
3. 割籾がやや少ない 3. いもち病抵抗性が不十分である
採用予定県および
普及予定面積
北海道       10,000ha
調査地 上川農業試験場(比布町) 中央農業試験場(岩見沢市) 試験箇所平均(農試、現地 3)
調査年次 平成17〜19年(中苗移植標肥) 平成17〜19年(中苗移植標肥) 平成17〜19年(中苗および成苗移植標肥)
 系統・品種名  

 形  質

上育453号
対照品種 おぼろづき 対照品種ほしのゆめ
上育453号
対照品種おぼろづき 対照品種ほしのゆめ
上育453号
対照品種 おぼろづき 対照品種ほしのゆめ
出穂期の早晩性 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早
成熟期の早晩性 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早
草型  穂数型  穂数型  穂数型  穂数型  穂数型  穂数型  穂数型  穂数型  穂数型
出穂期 (月・日) 7.25 7.24 7.25 8.4 8.4 8.4 8.1 7.31 7.31
成熟期 (月・日) 9.13 9.12 9.11 9.16 9.14 9.13 9.15 9.15 9.14
登熟日数 (日) 50 50 48 43 41 40 45 46 45
稈長 (㎝) 65 60 65 68 65 69 67 64 67
穂長 (㎝) 16.5 17.2 15.7 16.1 17.5 15.0 16.6 17.5 15.6
穂数 (本/㎡) 760 735 759 870 819 820 636 627 664
一穂籾数 38.7 40.9 38.6 45.2 48.3 43.9 51.4 52.8 48.8
割籾歩合(%) 37.6 44.1 68.4 20.9 21.4 40.1 25.4 31.9 47.0
不稔歩合(%) 7.8 5.4 6.3 12.6 14.5 12.8 13.5 11.8 12.3
芒の多少・長短 稀・短 稀・短 少・短 - - - - - -
ふ先色 黄白 黄白 黄白 - - - - - -
脱粒性 - - - - - -
耐倒伏性 やや弱 やや強 やや弱〜中
- - - - - -
穂ばらみ期耐冷性 やや強〜強 - - - - -
開花期耐冷性 やや強 - - - - - -
いもち病真性    抵抗性遺伝子型 pii,pik pii,pik pia,pii,pik - - - - - -
葉いもち耐病性 やや弱 やや弱 - - - - - -
穂いもち耐病性 やや弱〜中 やや強 - - - - - -
玄米重((kg)/a)
62.8 58.4 58.8 55.4 52.2 53.7 50.2 47.2 47.2
玄米重標準比(%) 108 100 101 106 100 103 106 100 100
玄米千粒重(g) 22.2 21.8 22.1 21.6 21.0 21.2 22.1 21.6 21.7
玄米等級 1下 1中下 1中下 1中下 1中 1中下 1中下 1中下 1下
玄米品質 4) 3.7 3.7 3.0 3.7 3.3 3.3 - - -
アミロース含有率(%) 15.7 13.4 20.7 14.3 11.8 19.7 14.3 12.4 19.9
蛋白質含有率(%) 6.2 6.4 6.1 7.0 7.5 7.0 7.1 7.4 7.1
食味 5) 上中(0.51) 上下(0.45) 上下(0.00) (0.43) (0.47) (0.00)
食味 6) 0.29 0.00 -0.58 0.16 0.00 -
1)札系96118:北海287号(きらら397の培養変異)、「おぼろづき」の父本
2)上育427号:「ほしたろう」;上育418号(ほしのゆめ)/空育150号(あきほ)
3)上川、中央、道南農試、北農研センター(試験期間3ヶ年)、現地試験(試験期間2ヶ年

 「上育453号」、「ほしのゆめ」は57サンプル、「おぼろづき」は51サンプルの平均値
4)9段階評価 1(上上)〜9(下下)とした
5)()の数値は食味官能評価総合値(「ほしのゆめ」基準)
6)同「おぼろづき」基準の食味官能評価総合値
*)「ほしのゆめ」を基準とした食味官能評価総合値の試験研究機関全平均は、「上育453号」0.49、「おぼろづき」0.38、 「コシヒカリ」0.03であった。

2.特記すべき特徴
「上育453号」は、中生の粳系統でアミロース含有率が適度に低く、その食味は、「ほしのゆめ」に明らかに優り、「おぼろづき」並かやや優る極良食味である。また、収量性は対照品種に比較して高い。

3. 優良品種に採用しようとする理由
 近年、北海道産粳米は、品種改良や栽培技術の改善による食味水準の向上および販売面の努力によって全国的な評価を高めている。しかし、ここ数年の北海道は登熟条件が良好であるが、今後の気象条件の変動によっては食味の低下も懸念される。一般に登熟温度の低い北海道では、アミロース含有率が高くなりやすく、炊飯米の粘りが弱くなる傾向にある。そのため、高い食味水準を確保するためにはアミロース含有率が適度に低い米が必要とされてきた。「おぼろづき」はアミロース含有率が適度に低く食味が優れる銘柄米として高値で取引されるため、作付面積は年々増加傾向にあり、平成19年には約3,800ha作付けされている。しかし、同品種は玄米粒厚が薄いため収量性が低く、その需要に対して生産量が不足している。
 一方、「ほしのゆめ」は北海道米のブランド形成と食味向上に貢献してきたが、食味水準は「おぼろづき」に比べると劣り、収量性も基幹品種の「きらら397」や「ななつぼし」に比べて劣るため近年栽培面積が減少している。
 「上育453号」はアミロース含有率が適度に低く、蛋白質含有率も「おぼろづき」に比べやや低いために、その食味は、「ほしのゆめ」に明らかに優り、「おぼろづき」並かやや優る。実需者からは「コシヒカリ」と比較しても遜色のない評価を得ている。また、「おぼろづき」、「ほしのゆめ」に比べ収量性が高い。耐冷性は対照品種に比べてやや劣るが、粒厚・粒重に優るため、冷害時も稔実粒数の不足を補えると予想され、対照品種並の収量を確保できると考えられる。
 以上のことから、「上育453号」を「おぼろづき」の全てと「ほしのゆめ」の一部に置き換えて作付けすることにより、極良食味米の安定供給と北海道米の食味向上に寄与できる。

4.普及見込み地帯
 1)適地  上川(名寄市風連町以南)、留萌(中南部)、空知、石狩、後志、胆振、日高、渡島および檜山各支庁管内
2)対照品種    
  「おぼろづき」の全てと「ほしのゆめ」の一部

5.普及見込み面積  北海道 10,000 ha

6.栽培上の注意
1)耐冷性が対照品種に比べやや劣るため、前歴期間および冷害危険期にかけて深水管理を徹底する。
2)耐倒伏性がやや劣るため「北海道施肥標準」を遵守し、多肥栽培は厳に慎む。
3)いもち病抵抗性が不十分であるため発生予察に留意し、適切な防除に努める。