成績概要書(2008年1月作成)
研究課題:加工用ほうれんそうの露地栽培技術
      (低硝酸ほうれんそうの安定供給に向けた露地栽培技術の確立)
担当部署:上川農試 研究部 畑作園芸科
協力分担:
予算区分:道費
研究期間:2004〜2007年度(平成16〜19年度)
1.目的
露地栽培加工用ほうれんそうについて、低硝酸な生産物の安定供給に向け、実態調査により栽培実態の把握と問題点の抽出を行い、対応試験を実施して、栽培技術体系を提示する。
2.方法
1)露地栽培ほうれんそうに関する実態調査
調査年次:平成17年、調査対象:上川、網走、十勝支庁の加工用ほうれんそう5産地
2)品種特性調査
重要特性:晩抽性、収量性、発芽性、収穫作業性、標準品種:プロセス27、播種期:平成17年5月13日(作期Ⅰ)、6月9日(作期Ⅱ)、平成18年5月8日(作期Ⅰ)、6月5日(作期Ⅱ)、施肥量:N 2.0−P2O5 2.0−K2O 2.0kg/a、栽植密度:畦間60cm×株間7cm
3)窒素施肥量に関する検討
試験場所:上川農試場内圃場(礫質褐色低地土、熱水抽出性窒素3.0〜3.4mg/100g)、試験処理:0,1,1.5,1.75,2,2.5,3,4㎏・N/a、供試品種:プロセス27、播種期:平成17年5月27日、平成19年5月24日、6月6日、施肥量:P2O5 2.0−K2O 2.0kg/a、栽植密度:畦間60cm×株間7cm
4)播種方法に関する検討
実施試験:雨よけハウスでのモデル試験及び露地栽培試験、試験処理:溝底播種、慣行播種、供試品種:プロセス27
3.成果の概要
1)実態調査により以下の点が明らかとなった。(1)栽培時期は工場の稼動体系によって決まっており、播種期は概ね5月上旬〜6月上旬、収穫期は概ね6月下旬〜7月中旬であった。収穫時の草丈は概ね35〜45cmであった。収量は青果用ほうれんそうのおおよそ2.5倍であった。(2)主な栽培品種は「プロセス27」であった。加工向け露地栽培においてほうれんそう品種に求められる重要特性は、晩抽性、収量性、発芽性、収穫作業性であると考えられた。(3)栽植密度は畦間が54〜60cm、株間が6〜8cmであった。(4)播種方法は、シーダーテープ播種であった。発芽が不安定であることを課題に挙げた産地があった。(5)手取り収穫をしており、収穫労力が多大であることが問題となっていた。

2)品種特性調査の結果、総合的に標準品種より優れる品種は見出せなかった(表1)。

3)窒素施肥量試験において、総収量は窒素施肥量1.75〜2kg/aで最大となった。硝酸含有量は窒素施肥量が増加するにつれて多くなり、窒素施肥量2kg/aでは3000ppmを上回った。窒素吸収量は窒素施肥量2kg/a以上で概ね頭打ちとなり、窒素施肥2kg/aでは施肥窒素利用率が50%を下回った。このため、土壌残存硝酸態窒素は窒素施肥量2kg/a以上で大きく増加する場合が多かった。以上より、収量、ほうれんそうの硝酸有量の指標値(3000ppm以下)、土壌残存硝酸態窒素等を総合的に勘案すると、露地栽培加工用ほうれんそうの適正な窒素施肥量は1.75kg/aであると考えられた(図1)。本試験におけるカリ吸収量を検討した結果、カリ施肥量は窒素施肥量と同水準まで増肥することが望ましいと考えられた。

4)雨よけハウスでのモデル試験において、溝底播種は慣行播種に比べて土壌の深さ0〜5cmの土壌水分含有率が高く維持され、特に土壌が乾燥した条件で発芽が良好となることが確認された。露地栽培試験で、程度の差はあったが4事例中3事例で発芽が良好となった(表2、表3)。

5)以上の結果に基づき、加工用ほうれんそうの露地栽培技術体系をとりまとめた(表4)。    
4.成果の活用面と留意点
1)本技術は、加工用ほうれんそう産地及び新たに加工用ほうれんそう露地栽培に取り組む産地において、栽培上の参考とする。
2)本成果は、実態調査を除き、上川農試場内圃場で実施した試験結果に基づくものである。
3)窒素施肥量試験は、上川農試場内圃場(熱水抽出性窒素3.0〜3.4mg/100g、土壌窒素肥沃度水準Ⅱ(標準))で実施した。
4)溝底播種は慣行播種に比べて強い鎮圧がかかりやすく、播種時の土壌水分含有率が高い場合、土壌がしまり発芽に悪影響を及ぼすことがあるため、溝底播種を行う際には土壌がクラスト化しないように鎮圧の程度に留意する。

5.残された問題とその対応
1)収穫作業の機械化に向けた検討