成績概要書(2008年1月作成)
研究課題:  スクレイピー感染抵抗性羊群の作出と生産性の評価
担当部署: 道立畜試 家畜研究部 中小家畜飼養科  基盤研究部 感染予防科
協力分担: 北海道大学大学院獣医学研究科
予算区分: 委託研究(BSEプロジェクト)
研究期間: 2003〜2007年度(平成15〜19年度)
1.目的
めん羊ではプリオンタンパク(PrP)遺伝子の多型に起因するスクレイピー抵抗性が知られている。この抵抗性遺伝子に基づいて後継羊を選ぶことにより抵抗性羊群を作出し、この遺伝子型による選抜が生産性に影響を及ぼさないことを検証する。また、道内生産農場におけるスクレイピー感受性・抵抗性PrP遺伝子型の分布を調査し、道内羊群へのスクレイピー抵抗性向上の方向性を提示する。

2.方法
1) 畜試サフォーク羊群における抵抗性PrP遺伝子頻度の向上
2) 抵抗性PrP遺伝子型がめん羊の生産性に及ぼす影響
3) 道内生産農場におけるPrP遺伝子型の分布調査と抵抗性種雄羊導入の効果
4) 道内羊群のスクレイピー抵抗性向上のシミュレーション

3.成果の概要
1) 畜試サフォーク羊群におけるPrP遺伝子型では、感受性に関わるコドン136はすべて非感受性のアラニン(A)ホモ(A/A)であり、感受性のバリン(V)は検出されなかった。抵抗性に関わるコドン171には抵抗性のアルギニン(R)と非抵抗性のグルタミン(Q)が検出され、抵抗性ホモ(R/R)、抵抗性ヘテロ(R/Q)、非抵抗性ホモ(Q/Q)の3タイプが存在した。R/R雄羊の交配割合を高め、抵抗性Rの遺伝子頻度を高める育成羊の選抜により、羊群の抵抗性Rの遺伝子頻度は2002年の26%から2007年の66%に上昇した(図1)。
2) 損耗率、雌羊の繁殖成績、子羊の発育成績、および雄子羊の肥育成績について実施した生産性の評価では、ほとんどの項目でPrP遺伝子型による有意差が認められなかった。繁殖成績では産子数がQ/Qで有意に小さかった(表1)。発育成績では5、6カ月齢補正体重(表2)と体尺値の一部に有意差があったが、月齢の進行により解消した。肥育成績では乾草摂取量(表3)に有意差があったが、飼料要求率や生産された枝肉の量・質に影響はなかった。したがって、これらの生産性については、スクレイピー抵抗性PrP遺伝子型のコドン171で抵抗性Rを優先する選抜をしても影響はないと考えられた。
3) 道内農場の調査では、感受性に関わるコドン136にも非感受性ホモ(A/A)、感受性ヘテロ(A/V)、感受性ホモ(V/V)の3タイプが検出された。サフォーク羊における抵抗性Rの遺伝子頻度は40%、感受性Vの遺伝子頻度は1%であり、輸入群では、Rの遺伝子頻度は29%と低かった(表4)。その他の品種ではPrP遺伝子頻度は品種によって異なる傾向にあり、チェビオット・ポールドーセットで感受性Vの遺伝子頻度は高かった。PrP遺伝子型検査を実施した農場では種雄羊を抵抗性ヘテロAR/AQから抵抗性ホモAR/ARに入れ替えることにより、生産子羊の抵抗性Rの遺伝子頻度を大きく向上させることができた。また、輸入候補種雄羊のPrP遺伝子型検査の実施は輸入種雄羊の抵抗性遺伝子頻度を未検査の場合より高めることができた。
4) R遺伝子頻度が30%の繁殖雌羊群をモデルにすると、抵抗性ホモAR/ARの種雄羊による交配を継続することにより、PrP遺伝子型の全頭検査をしなくてもR遺伝子頻度を9年で80%程度まで高めることができた(図2)。

(まとめ)抵抗性PrP遺伝子型による選抜は、繁殖成績、発育成績、肥育成績等の生産性に影響を及ぼさない。抵抗性ホモAR/AR 種雄羊の継続的な交配により、道内羊群のスクレイピー抵抗性遺伝子頻度を高めることができる。

                                 表1 母羊の繁殖成績の遺伝子型差異

       
   図1 畜試羊群におけるコドン171 
       抵抗性PrP遺伝子型頻度の推移

   
表2 育成羊の月齢補正体重の遺伝子型差異            表3 肥育雄子羊の飼料摂取量の遺伝子型差異
          
 
  表4 サフォーク羊群におけるPrP遺伝子型の分布
          
                                                    図2 道内羊郡の抵抗性向上シュミレーション

4.成果の活用面と留意点
1)
 畜試羊群はスクレイピー抵抗性ホモAR/ARの比率が高くなっており、抵抗性種畜の供給により、道内羊群の抵抗性を向上させることができる。
2) サフォークでは、生産性を低下させることなく、抵抗性のPrP遺伝子型で選抜ができる。
3) コドン136のVやコドン171のQは、遺伝的な感受性や非抵抗性を示唆するものであり、スクレイピー罹患を意味するものではない。
4) 海外から新たな遺伝資源を導入する場合、特に種雄羊については感受性個体(コドン136V)を持ち込まないことと、抵抗性ホモ個体(コドン171R/R)の優先導入に留意する。
5.残された問題とその対応
1) スクレイピー抵抗性PrP遺伝子をホモで持つAR/AR種畜の継続的供給の確保と、生精液による人工授精など効率的な種畜供給の確立。
2) 次世代めん羊、特に種雄候補羊のPrP遺伝子型の継続的な検査。