成績概要書 (2008年1月作成)
研究課題:乳牛における分娩前の飼養管理方法の改善による介助分娩の低減
       (乳牛の自然分娩促進による繁殖改善技術)
担当部署:根釧農試 研究部 乳牛繁殖科
協力分担:なし
予算区分:道費
研究期間:2004〜2007年度(平成16〜19年度)
1. 目的
難産および介助分娩が繁殖成績を低下させることをこれまで明らかにしてきた(根釧農試、2004)。一方、推奨される分娩前の飼養管理方法が分娩状況に及ぼす効果は実証されていないため、介助分娩あるいは不要な介助で生じた難産が発生している。本試験では、乾乳後期用飼料への移行時期および分娩管理方法が介助分娩の低減に及ぼす効果を明らかにするとともに、分娩前の糖蜜飼料給与および歩行運動の導入により介助分娩の低減を目指す。
2. 方法
1)分娩前の飼養管理方法の改善と分娩状況との関係
(1)乾乳後期用飼料への移行時期および分娩介助基準の遵守が分娩状況に及ぼす影響
(2)分娩前のボディコンディションスコアが分娩状況に及ぼす影響
2)介助分娩を低減させるための分娩前の予防対策
(1)分娩前の糖蜜飼料給与が分娩状況に及ぼす影響
(2)乾乳期の歩行運動が分娩状況に及ぼす影響
3. 成果の概要
1)(1)根釧農試において乾乳後期用飼料への移行時期(2003年6月)および分娩介助基準(2004年6月)を変更した前後で延べ557頭の分娩状況等を調べたところ、乾乳後期用飼料への移行時期を分娩予定2週前から4週前に改善することで、初産牛の難産発生率が32.3%から13.3%に減少した(図1)。また、二次破水後に胎子と産道の状態を確認し、異常がある場合のみ介助を実施するとした分娩介助基準の設定により、初産牛では無介助分娩率が33.3%から56.3%に増加し、経産牛では無介助分娩率が65.1%から77.2%に増加するとともに難産発生率が11.1%から4.7%に減少した。
(2)分娩介助基準設定以降に分娩した経産牛46頭を分娩予定4週前のBCSにより2区分して分娩状況を調査したところ、BCSが3.25以下の牛は、無介助分娩率が94.4%とBCS3.5以上の牛の67.9%と比較して高い傾向があり、分娩後の繁殖成績もおおむね良好であった(表1)。したがって、介助分娩を低減するためには分娩前のBCSを3.5以上にならないように調整することが必要と考えられた。
2)(1)初産牛17頭および経産牛37頭を供試し、給与区には糖蜜飼料を分娩予定1週前から1日1kg(糖蜜350g)給与した。これらを分娩前のBCSにより2区分して分娩状況を調査したところ、BCS3.5以上の経産牛における給与区では無介助分娩率が93.8%と対照区64.3%と比較して高い傾向があった(表2)。これらのことから、分娩前のBCSが3.5以上の経産牛では、分娩前の糖蜜飼料給与により介助分娩が低減するものと考えられた。
(2)経産牛47頭を供試し、乾乳期間中タイストールで飼養し1日約1,300m(約25分)の歩行運動を行う運動区および歩行運動を行わない拘束区、ならびにフリーストールで飼養するFS区に分け、分娩状況を比較した。無介助分娩率には3区間で差が認められなかったが、運動区ではインスリン感受性正常牛の割合が有意に上昇した(表3)ことから、乾乳期の歩行運動は糖代謝能を改善する効果があると考えられた。
以上の結果から、次に示す飼養管理により介助分娩を低減できることが示された。①乾乳期のBCSが3.5以上にならないように調整する。②初産牛の乾乳後期用飼料への移行は分娩予定のおおむね4週前とする。③分娩介助基準を設定し、それを遵守する。④分娩前のBCSが3.5以上の経産牛には、分娩前に糖蜜飼料を給与する。

以上の結果から、次に示す飼養管理により介助分娩を低減できることが示された。①乾乳期のBCSが3.5以上にならないように調整する。②初産牛の乾乳後期用飼料への移行は分娩予定のおおむね4週前とする。③分娩介助基準を設定し、それを遵守する。④分娩前のBCSが3.5以上の経産牛には、分娩前に糖蜜飼料を給与する。



 

 

4. 成果の活用面と留意点
(1)酪農場で介助分娩を低減するために利用する
(2)糖蜜飼料の給与方法は暫定法である

5. 残された問題とその対応
(1)糖蜜飼料給与が分娩状況に及ぼす効果のメカニズムの解明
(2)運動量と運動期間の検討