成績概要書 (2008年1月作成)

課題分類:北海道農業 >畜産・草地 >畜産
研究課題:6330分の熱処理が初回初乳の抗体濃度と子牛への移行割合に与える影響
       (初乳用低温殺菌機の利用法と抗体移行効果)
担当部署:根釧農試 研究部 乳質生理科、乳牛飼養科
協力分担:なし
予算区分:民間受託
研究期間:2006年度(平成18年度)

1.目的
 病原細菌で汚染された初乳を介して子牛の消化器疾患や牛群内の細菌性感染症が増長される危険が指摘されている。初乳のプール利用におけるこれらの危険を回避するため、米国では、初乳の殺菌装置が開発されており、大規模農場ではプール初乳を殺菌して利用する技術が取り入れられている。常乳に比較して粘度の高い初乳にも対応可能で、移行性免疫の損失の少ない6330分条件で生乳の殺菌を行う、米国から導入された初乳用低温殺菌装置の利用法と殺菌初乳による子牛への抗体移行効果を明らかにして、その利用上の留意点を検討する。
2.方法
1)初乳用低温殺菌装置の性能と利用方法
 供試機 CALF GUARDIAN(米国、GOODNATURE社)+初乳用付加部品+60リットルタンク材料・加熱処理 凍結保存初回初乳40リットル(供試機定格量)、6330分加熱
調査項目 加熱処理前後の細菌数(平板培養法)、IgG濃度(放射免疫拡散法)                                                    

2)低温殺菌初乳の抗体移行性
供試家畜  ホルスタイン子牛 雌7頭、雄3頭
供試初乳と給与量 6330分加熱初乳、2リットル×3
調査項目  血清中IG濃度、IgG吸収率
IgG吸収率=血清濃度(24時間時)×総血清量
(生時体重の7%)÷IgG摂取量(2リットル×2回分)」        

3.成果の概要 
1)初乳用低温殺菌装置の性能と利用方法
(1)供試装置はタンク内に泡立ちが少ない状況では、99.9%以上の良好な殺菌効果が得られた。しかし、タンク内に激しい泡立ちを生じ、表面が厚く泡で覆われた状態では殺菌効率が低下した(表1)。
(2)初乳用付加部品を使用した供試装置による殺菌処理後の初乳中IgG量の残存割合は、70%〜79%でその平均は74%であった(表1)
(3)殺菌処理工程では、約5リットルの初乳が装置内に残存した。このため、使用後の洗浄時の前すすぎ行程では、牛乳成分の効率的な除去を図るため、温水での流し捨て法によるすすぎを数回繰り返す必要がある。
(4)牛乳等の加熱処理に伴い、熱交換部内の加熱体表面には、アルカリ洗剤と酸性洗剤を用いた通常の循環洗浄では除去できない汚れの付着が生じる。このため、毎回、熱交換部を開放し、加熱体の表面をブラシにより手洗浄する必要がある。
2)低温殺菌初乳の抗体移行性
(1)低温殺菌初乳を2リットル×2回給与した子牛の血清中IgGの平均値は、12.7±2.0mgmlIgG摂取量の目安とされる10mgmlを上回った。また、IgG吸収率は34.2±8.8%で既報の非殺菌初乳で得られた値と同等程度であった(表2)

 
 
4.成果の活用面と留意点
1)初乳の低温殺菌処理法と低温殺菌乳利用のための情報として利用できる。
2)6330処理初乳の哺乳利用により、汚染された初乳が原因となり発生・伝搬する感染症の低減が期待できるが、加熱処理により初乳中IgG量が7080%に低下するので考慮すること。
3)供試装置の初乳処理量は40リットル/回であるが、タンク変更により増量できる。
4)泡立ち防止のため、初乳の穏やかな投入と稼働前の装置配管内の空気抜きに務め、厚さ1cm以上の泡を生じた場合、63℃到達前に泡を取り除くこと
5.残された問題とその対応
1)殺菌処理中の泡立ちの原因究明と対策の検討。
2)加熱処理法の改善によるIgG損失の低減。