成績概要書(2008年1月作成)
研究課題:酪農場における牛サルモネラ症の実態解明と発生防止対策
       (成牛におけるサルモネラ症の発生要因解明と予防技術)
担当部署:道立畜試 基盤研究部 感染予防科・病態生理科 根釧農試 研究部 乳牛繁殖科
予算区分:道費
研究期間:2005〜2007年度(平成17〜19年度)
1. 目的
近年多発傾向にある乳用牛のサルモネラ症について、その感染実態や発生要因を明らかにし、発生防止対策を示す。
2. 方法
1) 酪農場におけるサルモネラ感染実態の解明
(1) 飼養環境および牛糞便からのサルモネラの検出
(2) 血清学的検査によるサルモネラ感染実態の解析
2) サルモネラ症の発生に関与する要因の解析
(1) サルモネラ症発生農場における発症・保菌状況と飼養管理の特徴
(2) ルーメン液中でのサルモネラの増殖性の検討
3) 酪農場における牛サルモネラ症発生防止対策

3. 成果の概要
1) - (1) A町の過去の発生農場を含む酪農場の牛舎環境材料および成牛の糞便材料からサルモネラ(Sal)は分離されなかった(表1)。また、同町の預託哺育農場に導入した子牛の糞便からSalが分離されたのは、1,600頭中7頭(0.44%)であり、ほとんどの子牛が陰性だった。これらのことから、調査対象とした酪農場においてSalは常在しておらず、外部からSalを持ち込まない管理が重要と考えられた。
1) - (2) A町のSal症発生歴のある農場5戸、非発生農場5戸の24ヶ月齢以上の牛180頭について、ELISA法によってSalに対する抗体を調査したところ、発生歴の有無に関わらず抗体陽性と判定される牛が165頭中52頭(31.5%、ワクチン接種農場を除く)認められ、非発生農場であってもSalに感染する機会が存在する可能性が示唆された。
2) - (1) AおよびB町のSal症発生農場と非発生農場を比較したところ、発生農場は飼養頭数が有意に多く、飲水器の洗浄頻度が少ない傾向にあった。初発牛やSal陽性牛は泌乳前期牛(0〜100日)に多く(表2、図1)、泌乳前期牛に共通する要因がSal症の発症に関与していると考えられた。そして、発生農場で認められた泌乳初期牛(31〜60日)における乳蛋白質率の低下(表2)、すなわち牛がエネルギー不足の状態にあることが発症要因に関与していると考えられた。
2) - (2) 飼料給与条件が異なる牛のルーメン液を用い、S. Typhimurium(ST)6株を39℃で6時間振盪培養したところ、ルーメン液のpHおよび総VFA濃度と生菌数の増減との間に高い相関が認められた(図2)。Sal症との関連が指摘されているアンモニア態窒素濃度と生菌数の増減との間には、負の相関(r=-0.414)が認められた。生菌数は16時間の絶食後に得られた高pH、低総VFA濃度のルーメン液中で最も増加し、ルーメン内環境を同様の状態にする飼養条件は、Sal症の発生要因になることが示唆された。さらに、平成5年および17年に分離されたST7およびST14は、昭和61年に分離されたST3よりもルーメン液中で増殖しやすく、この増殖性の違いが近年のSal症多発の一要因となっている可能性が示唆された(図3)。

3) 以上の結果から、Sal症の発生防止のためには、1.Salの農場内持ち込みを防ぐ管理、2.牛への感染機会を減らす管理、3.ルーメン機能を正常に維持する飼養管理、すなわち採食量が制限される管理の防止やルーメンアシドーシスを防止する管理が重要である(表3)。

4.成果の活用面と留意点
 1)酪農場におけるサルモネラ症の発生防止対策として活用する。
5.残された問題とその対応
 1)酪農場へのサルモネラの侵入経路の解明
 2)成牛への感染試験によるルーメン内でのサルモネラ増殖の再現