成績概要書(2008年1月作成)
研究課題:LAMP法による牛ヨーネ菌検出
      (LAMP法による牛ヨーネ病迅速診断法の実用化)
担当部署:畜試 基盤研究部 遺伝子工学科、感染予防科
協力分担:(独)動物衛生研究所、栄研化学株式会社
予算区分:道費(重点領域)
研究期間:2004〜2006年度(平成16〜18年度)
1.目的
 北海道における牛ヨーネ病患畜は2006年に555頭、2007年には7月の時点で422頭と減少傾向がみられない。畜産試験場は2004年1月に国産の遺伝子増幅技術であるLAMP法を用いた牛糞便からのヨーネ菌遺伝子検出法を開発したが、検出感度が0.05pg/testと低く、また検出時間が90分間と長いため、改良が必要であった。
本試験では、新たにプライマーを作製し、LAMP法の検出感度向上および反応時間短縮を目指した。
2.方法
1)新規プライマーの設計
LAMP法による牛ヨーネ菌検出法の検出感度向上と反応時間短縮のために、新たにプライマーを作製し、そのプライマーを用いたLAMP法の検出感度と特異性を検討した。
2)糞便試料からのヨーネ菌DNAの検出
疫学的にヨーネ菌が含まれていないと考えられる糞便試料(陰性糞便試料)を用いて、LAMP法の精度を検討した。また、ヨーネ病患畜から採取した糞便試料(患畜糞便試料)やヨーネ病発生農家の牛群から採取した糞便試料(継続検査試料)を用いて糞便培養法、LAMP法およびリアルタイムPCR法によるヨーネ菌検出結果を比較検討した。
患畜糞便試料を用いた試験では、糞便培養法の結果をそのコロニー数に基づいてスコア化した「培養スコア」を用い、LAMP反応において濁度0.1に達した時間「Tt値」を用いて、検出結果を比較検討した。培養スコアは、コロニーの形成がなかった試料を0、コロニー数が1〜9個の試料を1、10〜99個の試料を2、コロニー数100個以上の試料を3とした。また、LAMP法のTt値とリアルタイムPCR法のCt値(リアルタイムPCR法において一定の増幅産物に達するサイクル数)との関係を検討した。
3.成果の概要
1)新たに設計したプライマーF17によるLAMP法は、リアルタイムPCR法と同程度の検出感度であり、40分間のLAMP反応によりヨーネ菌DNA0.005pg/testを検出した(図1)。また、高濃度のヨーネ菌類似菌DNAは50分以降に増幅したが、想定している判定時間以降の増幅であり識別可能であった。またプライマーダイマーに起因する非特異増幅は120分間までは生じなかった。
2)陰性糞便10試料から調製したDNA試料においてLAMP法による増幅反応はみられなかった。
3)患畜糞便58試料のうち糞便培養法陽性の16試料すべてにおいてLAMP法によりヨーネ菌DNAを検出した(表1)。培養スコアが大きくなるとLAMP法のTt値が小さくなる傾向がみられた(図2)。LAMP法の検出結果は、リアルタイムPCR法の検出結果とほとんど一致し(93.1%)(表2)、またLAMP法のTt値とリアルタイムPCR法のCt値に相関(R2=0.736)があった(図3)。
4)継続検査試料において糞便培養法陽性の9試料のうちLAMP法により検出できたのは3試料であった。糞便培養法において確認されたコロニー数が少ない試料において、LAMP法およびリアルタイムPCR法で検出されないものもあったが、LAMP法検出結果はリアルタイムPCR法の検出結果とほとんど一致した(96.8%)。

以上のとおり、LAMP法の改良により、リアルタイムPCR法と同程度の感度で糞便中ヨーネ菌DNAを検出することが可能となり、LAMP反応時間は90分間から40分間までに短縮できた。

    1 患畜糞便試料からの検出(n=58            2 LAMP法とリアルタイムPCR法の比較
       

       
                    1 ヨーネ菌DNA試料を用いた検出感度

    
        2 培養スコアとLAMP法のTt値の比較           図3 LAMP法のTt値と
                                           
リアルタイムPCR法のCt値の比較

4 成果の活用面と留意点
1)ヨーネ菌用培地上に形成したコロニーのヨーネ菌同定に活用できる。
2)本検査法は、国の「牛のヨーネ病防疫対策要領」および北海道の「牛のヨーネ病防疫対策実施要領」において、牛ヨーネ病の検査法に規定されておらず、現段階では、診断に利用できない。
3)LAMP試薬キットを2008年度発売の予定。

5 残された問題とその対応
ヨーネ病診断に利用できる検査法となるには、糞便からの簡易なヨーネ菌DNA抽出法の開発による多検体検査への応用が残されており、現在進行中の試験課題(「多検体検査に適したヨーネ病遺伝子診断法の改善」平成2007〜2008年度 民間共同)で取り組んでいる。