試験成績概要書(2008年1月作成)
研究課題:簡易耕・初冬季播種による傾斜地等条件不良草地の植生改善技術
      (予算課題名:簡易耕と初冬期播種を組み合わせた傾斜・石れき草地の植生改善技術の確立)
担当部署:道立畜試 環境草地部 草地飼料科、北海道農業開発公社
協力分担:なし
予算区分:民間共同研究
研究機関:2005−2007年度(平成17−19年度)
1.目的
傾斜地等の条件不良草地の生産性回復を進めるため、簡易草地更新法と牧草の初冬季播種法を組み合わせて種子流亡や表土流亡等のリスクを克服しつつ更新可能期間の拡大と所用時間の短縮及び低コスト化を図る植生改善技術を開発する。
2.方法
1)牧草の低温出芽性の解明と地域別の初冬季播種適期の設定
2)簡易更新工法による傾斜石れき草地の植生改善効果
3)初冬季播種牧草の定着安定化技術の確立
4)簡易更新・初冬季播種による植生改善効果の現地実証
5)簡易更新の施工所要時間および経費試算
3.成果の概要
1)平年的な漸低下温度条件下では、チモシーは日平均気温6℃以下で播種すると越冬前出芽を回避出来(図1)、一時的昇温については、日平均気温7℃で3日間続くと越冬前に半数程度の種子が出芽する危険がある。
2)十勝管内各地のアメダス気温データによると初冬季の日平均気温は約4日で1℃ずつ低下し、一時的な気温上昇の出現の終息時期には地域毎に一定の傾向がみられることから、前記1)の低温出芽性を基に、越冬前出芽を回避して安定的に早春の出芽・定着が見込まれる「初冬季播種適期」を町村毎に設定した(表1)。この事は、播種期間の2〜4週間の拡大を意味する。
3)作溝法および穿孔法による初冬季播種は傾斜草地の植生改善に有効である。表土の流亡は発生しなかった。穿孔法による初冬季播種は石れき草地の植生改善にも有効であった。
4)pH改善の観点から見た場合の簡易更新の対象草地は、pH5.5以上とするべきである。傾斜地のため簡易更新が最優先の条件の場合は、防散石灰と粗砕石灰を混用し穿孔法によって出来るだけ石灰の土壌混和を図ることでpH5.5以下の草地への適用が可能と思われた。
5)簡易更新・初冬季播種における基肥窒素施用は、施用時期は早春、施用量は4〜6kgが望ましい。
6)簡易更新・初冬季播種による現地実証試験では、1番草で概ね75%以上のチモシー率が得られた(表2)。表土や種子の流亡は起きなかった。
7)試算によるヘクタールあたりの施工時間は、完全更新の12.39時間に対して簡易更新では4.27時間(34.5%)〜6.85時間(55.3%)であった。また総工事費は、完全更新の426,419円に対して308,065円(72.2%)〜346,014円(81.1%)であった(表3)。なお、工法に関係なく必要な資材費等を除いた機械費分で比較すると、完全更新(112,149円)に比べて簡易更新は38.9%〜60.1%であった。
8)以上の知見をもとに、傾斜地等の条件不良草地に対する各種工法の適用場面と効果を整理した(表4)。
4.成果の活用面と留意点
1)施工予定草地の事前調査(植生診断、土壌診断)を行う。
2)播種量は、地域の完全更新時の標準的な播種量と同程度とする。
3)雑草の発生が多くチモシーの生育が抑制される恐れがある場合は、適宜の掃除刈りを行う。
4)マメ科草の初冬季播種は困難と言われており追播が望ましい。
5)本成績は、傾斜地で行った試験成績であるが、平地での草地更新にも活用出来る。
5.残された問題
1)初冬季播種出芽当年の草地管理法(草地条件別施肥法、秋の雑草「エゾノギシギシ」対策)
2)ルートマットの厚さと簡易更新工法別出芽・定着率。
3)初冬季播種によるマメ科牧草混生率向上方法の確立。
4)簡易更新草地の理化学性推移と植生維持年限の解明。

   表1  初冬季播種適期
     
                                1  初冬季の漸低下温度条件処理に伴う主
                                                        要イネ科牧草の出芽性

   
  表2  現地実証試験における植生改善効果            表4 簡易耕・初冬季播種による草地の
    
   (2006年初冬季播種施工、2007年出芽当年1番草)             植生改善の摘要場面と効果 
    
  ()内は、順に斜度、pH、前植性の優占草種、播種施工月/日を示す。
工法:GH=穿孔法、OS=作溝法(狭条)SM=作溝法(通常)。供試面積は各工法とも約30a
作業体系:除草剤散布()→石灰散布・播種床処理・播種(初冬季)→施肥(早春)
圃場出芽率: 100×出芽数/(実播種量:g/㎡×粒/g)により算出。

   表3  施工時間および施工経費(ha当たり)試算
  
    試算根拠:北海道農業開発公社における平成19年度単価基準による。