成績概要書(2008年1月作成)
道央における秋まき小麦の収量・品質安定化のため、その変動要因を明らかにし、改善策を示す。また、収量水準・タンパク質含有率に適合した窒素吸収量の目安を設定する。 2.試験方法 全試験調査 供試品種:ホクシン 1)現地実態調査 調査圃場:空知支庁管内における秋まき小麦作付け圃場のべ107箇所 年次別:2004年62箇所、2005年3箇所、2006年30箇所、2007年12箇所 土壌別:低地土57箇所、泥炭土20箇所、火山性土12箇所、台地土18箇所、 調査項目:小麦の生育収量、農家栽培履歴、土壌理化学性、土壌断面調査 2)晩播が生育・収量・品質に与える影響:試験圃(中央農試本場、岩見沢試験地)における播種期試験 3)土壌物理性不良が生育・収量・品質に与える影響 (1)硬盤層の影響:岩見沢試験地(灰色低地土)にて深さ20cm、40cmに硬盤層を造成 (2)乾燥ストレスの影響:直径85cm深さ50cmポットで、止葉期以降の各生育節期にかん水を停止 (3)地下水位の影響:岩見沢試験地の地下水位が異なる圃場(泥炭土) 4)目標窒素吸収量の設定 中央農試本場(火山灰客土)、岩見沢試験地(泥炭土、灰色低地土)、現地実態調査圃場にて、収量とタンパク質含有率(以下、タンパクと略す)、窒素吸収量の関係を検討 3.成果の概要 1)現地調査圃場の粗子実重は191〜921kg/10a、タンパクは7.2〜13.7%と変動幅が大きく、地域内の変動と同時に年次・地域間でも変動が見られた(図1)。タンパクが基準内(9.7〜11.3%)に収まったのは、全体の46%であった。土壌物理性は、容積重・固相率・硬度が大きく、気相率・易有効水分・飽和透水係数が低いなど、問題を有する圃場が多く認められた(表1)。土壌化学性は、pHが基準値より低い割合が高かった。低収・低品質事例を抽出した結果、晩播や耕起時の練り返しなどの播種の問題、難透水性・堅密な下層土や高い地下水位などの土壌物理性不良、過剰・不足などの不適切な施肥が考えられた。 2)播種が遅いほど穂数の減少により減収し、特に転換畑での極晩播(10月播種)は、23〜35%と大きく減収した。タンパクは播種が遅いほど低下した(データ省略)。 3)硬盤層が存在することによって根張りが不良となり、穂数、一穂粒数、窒素吸収量が少なくなった。20cm、40cm硬盤区は心土破砕区に比べそれぞれ44%、23%減収した(表2)。生育後半の乾燥ストレスにより収量、稔実粒数、千粒重が低下した。地下水位が高いほど、粗子実重およびタンパクが低くなった(図2)。 4)収量と窒素吸収量の散布図においてタンパクを基準内(9.7〜11.3%)で区分した場合、粗子実重と窒素吸収量の間にr=0.897**と極めて高い相関が見られた(図3)。タンパク10.5%を目標とした場合の窒素吸収量の目安を収量水準別に検討したところ、道東地方で示された窒素吸収量と同程度の値を示した(表3)。 5)以上より、道央転換畑での秋まき小麦における生育・収量の制限要因として、堅密な土壌物理性や水分ストレス、不適切な播種期や施肥が抽出された(表4)。改善策として、施肥ガイドや既往の試験成績を遵守するとともに、土壌物理性改善や水分ストレス緩和のため密な心土破砕や排水整備が有効である。
4.成果の活用面と留意点 1)道央転換畑の秋まき小麦について、収量・品質変動要因の把握とその改善策として活用できる 5.残された問題とその対応 土壌条件に応じた耕起管理法の開発、土壌水分供給法の開発、土壌・生育に適合した窒素追肥体系の確立 |