成績概要書(2008年1月作成)
2005年(収穫年度、以下同様)以降の国内産小麦に対して、子実の灰分含有率(以下、灰分)を加えた新たな品質評価基準が設定された。しかし、過去に北海道一円で灰分に関する実態調査や変動要因を取りまとめた試験事例はほとんどない。そこで、子実灰分の実態調査を行うとともに、気象、土壌、栽培法、品種等の関係から、灰分の主な変動要因を明らかにする。 2.方法 1)小麦の子実灰分の実態調査:道内小麦主要産地(支庁別)の1996〜2007年の灰分分析値(秋ま き小麦「ホクシン」)から、灰分変動の傾向を調査した。 2005〜2006年に道内生産者圃場等から 収集した「ホクシン」の子実の灰分、タンパク含有率(以下、タンパク)、容積重、千粒重、無機成 分含有率(P、K、Mg)、栽培履歴を調査した。 2)小麦の子実灰分の変動要因解析:灰分の変動要因として想定される条件(①気象条件、②土壌 条件、③栽培条件、④品種間差)と子実の灰分、タンパク、容積重、千粒重、子実重、栽培履歴 との関係について解析した。 3.成果の概要 1)灰分は年次間、地域間で大きく変動した。主要産地4支庁の「ホクシン」の灰分(平均値)は過去 11年間で1.40〜1.61%と変動し、支庁間差も毎年0.03〜0.21ポイント変動した。このうち、日本め ん用の基準値1.60%を超過したのは2カ年のべ4支庁であった(図1)。 2)2005〜2006年に生産者圃場から収集したサンプル(「ホクシン」415点)のうち、基準値を超過し た割合は2005年は17%、2006年は67%であり、年次による変動の大きさが伺われた(データ略)。 3)子実中に含まれる無機成分は2カ年平均で、 Kが33%、Pが23%、Mgが6%であり、この3成分で 灰分の62%を占めた。子実中のP含有率が高まると灰分は増加し、r=0.79〜0.85の高い相関を示 した(データ略)。 4)灰分は融雪期から出穂期までの低温多雨、登熟期の高温により増加した(データ略)。 5)作土の有効態リン酸が多くなると灰分は増加し、r=0.36〜0.54の正の相関を示した(図2)。2006 年の3地域を対象に、乾土100g当たりの有効態リン酸を10〜30mg(基準値)、30〜70mg、70mg以 上と3段階に区分し、灰分の平均値を比べると、それぞれ1.61%、1.66%、1.68%と増加した。 6)春まき小麦について、子実の登熟条件が良好な場合(容積重840g/L以上)は、基肥のリン酸施 用量を標準量から半減すると灰分は0.02〜0.05%減少したが、作土の有効態リン酸が10mg(/10 0g乾土)前後の場合、収量は低下した(図3)。 7)倒伏発生や立枯病、眼紋病の発病程度が高いと、容積重・千粒重は低下し、灰分は増加した (表1、一部)。 8)灰分には品種間差があり、秋まき小麦は「ホロシリコムギ」、「ホクシン」、「きたもえ」、「きたほなみ」 の順に低くなり、春まき小麦は「春よ恋」「はるきらり」が「ハルユタカ」より低かった(データ略)。 9)以上から、灰分の変動要因として、気象条件、土壌や施肥リン酸、倒伏や病害による子実の登熟 不良、品種の影響が抽出された(表2)。しかし、秋まき小麦における播種期・播種量や起生期以 降の窒素増肥時期、春まき小麦に対する基肥カリ施用量による灰分への影響は認められず、尿 素の葉面散布による影響はごく少ないと判断された。 ![]() ![]() 図2. 作土の有効態リン酸と灰分との関係(2006〜2007年) 注 1)図中の相関係数は対数回帰から求めた数値である。 2)図中の*、**はそれぞれ5%、1%水準で有意 ![]() 2006北見農試(作土有効態P12.1mg/100g乾土) 2007上川農試 (有効態P40mg/100g乾土) 図3. 基肥リン酸の施用量と灰分、容積重、整粒重 注)整粒重は2.2mm縦目篩上の子実による。単位:kg/10a。 ![]() 4.成果の活用面と留意点 1)本成績は小麦の品質評価基準に対応するため、北海道における子実灰分の実態とその変動要因を示した。 2)当面の対応として、適切な肥培管理や病害・障害発生の防止に努めるが、年次・地域によっては、灰分が品質評価基準値を上回る場合がある。 5.残された問題とその対応 1)作物体および子実への無機成分の吸収・蓄積過程と環境要因との関係。 2)高灰分地域における灰分低減対策。 3)低灰分品種の探索と遺伝的要因の検討。 |