成績概要書(2008年1月作成)
研究課題:高設・夏秋どりいちご「エッチエス-138」の養液管理および窒素栄養診断技術                    
       (窒素栄養診断に基づく高設・夏秋どりいちごの安定生産技術の確立)
担当部署:道南農試研究部 栽培環境科、作物科
協力分担:
予算区分:道費
研究期間:継2005〜2007年度(平成17〜19年度)
1.目的
 高設・夏秋どりいちごにおける養液の窒素管理法および窒素栄養診断法を確立することにより収穫期途中での収量減少を緩和し、夏秋どりいちごの生産安定化を図る。
2.方法
供試品種:エッチエス-138
栽培方法:魚箱(外寸55×34×12cm,16L)利用による高設栽培
栽植密度:4株/箱,千鳥植,120cm間隔縦方向設置,5,556株/10a
耕種概要:定植 5/24、収穫期 7/14〜11/7(H17年の例)
供試肥料:養液土耕1号:N-P2O5-K2O-CaO-MgO:15-8-16-6-2
供試培土:ピートモス:火山礫=1:1(容量比)、炭カル3g/L、過石1g/L
養液処理区:H17;①半量(L),②標準(N)(3000倍:50mgN/L),③倍量(H)
H18;①半量(L)②標準(N)③倍量(H)④HHNL⑤HNNL,⑥HLLL,⑦LLHL(切換日7/18,8/17,9/12)
H19;①NHNNN,②NHNLL,③LLHHL,④LLHNL,⑤LNHHL,⑥LNHNL,⑦NNHHL,⑧NNHNL,⑨LHHNL, ⑩LHNLL(切換日6/19,7/13,8/9,9/18、H19のH区は75mgN/L)、32ml/株・分、反復数:2
給液時間(分/日):定植〜7上旬:4〜9、7上旬〜9下旬:8〜13、9下旬〜:3〜10
調査項目:果実収量、果実品質、各部位乾物重、養分吸収量、時期別葉柄硝酸濃度
3.成果の概要
1)収穫果実部を除く作物体の乾物重および窒素吸収量の増加は前期収穫ピーク直後までみられたが、それ以降は認められなかった。また、窒素吸収量を部位別にみると果実部位の吸収量が最も多かった(データ省略)。
2)全生育期間中の養液濃度が高いほど果実収量は増加する傾向にあったが、果実のBrix値は低下し、酸度は高くなる傾向にあった。窒素施肥量に対する窒素吸収量の割合は施肥量が多くなるほど低下した(表1)。
3)果実収量は養液の窒素濃度配分を花房養成期および株養成期に中程度(50mgN/L)、前期収穫期では中休期の落ち込みを防ぐため高濃度(75mgN/L)、中休期は中程度(50mgN/L)、後期収穫期では無駄な養分の供給を抑えるために低濃度(25mgN/L)とした処理区において高く、同区は施肥窒素量に対する窒素吸収量の割合も高かった(表2)。
4)葉位別葉柄硝酸濃度は各区とも上位葉で低く、下位葉ほど高くなり、時期とともに高まる傾向にあった。養液濃度の上昇に伴い葉柄硝酸濃度は高まっており、これを測定することによって体内の窒素栄養を把握することが可能と考えられた(図1)。
5)果実の前期収量は直前の葉柄硝酸濃度が500〜1500mgNO3/kgFWをはずれると低収になり(図2左)、中休期収量は1000以下、2700mgNO3/kgFW以上で低収の傾向(図2、中央2図)、後期収量は1200〜2700mgNO3/kgFWの間で高収になる傾向を示した(図2右)。
6)以上のことから、安定的な収量確保のための養液窒素管理基準を設定し(表3)、さらに窒素栄養状態の確認のための各生育ステージにおける窒素栄養診断基準値も併せて設定した(表4)。
  これらの養液管理および窒素栄養診断技術基準により、高設・夏秋どりいちご「エッチエス-138」の収量安定化が図られる。

   



         図1 葉位別葉柄硝酸濃度の推移


    図2 各収穫期間総収量と直前の葉柄硝酸濃度の関係



 

4.成果の活用面と留意点
1)窒素栄養診断基準値からはずれた場合は養液濃度の調整をし、1週間後に再測定する。
2)当面、リン酸と加里の施肥配分は窒素施肥と同じとする。
5.残された問題とその対応
1)他品種についての栄養診断基準値の検討。
2)ハウス系外への養分流出軽減法の検討。