成績概要書(2008年1月作成)
研究課題:北海道の農耕地および未耕地における重金属類の賦存量
        (優良耕地保全のための重金属管理指標の確立)
担当部署:中央農試技術普及部、環境保全部
予算区分:道費
研究期間:1987〜1992年度(昭和62〜平成4年度)
1.目的
 北海道の農耕地および未耕地土壌における重金属類(銅、マンガン、カドミウム、鉛、ヒ素、ニッケル)濃度の実態および営農活動がこれらに及ぼす影響を明らかにする。

2.方法
1)土壌採取地点
 未耕地土壌585点−黒ボク土206、台地土164、低地土178、泥炭土37
 農耕地土壌164点−水田37、普通畑46、野菜畑40、樹園地16、草地25
2)調査項目:銅、マンガン、カドミウム、鉛、ヒ素、ニッケルについて、酸分解法および抽出法(「土壌および作物栄養の診断基準−分析法(改訂版)」(北海道立農業試験場、1992)に基づく)により濃度を測定した。
3)解析データ:S62〜H4年の「優良耕地保全のための重金属管理指標の確立」試験。分布図は北海道1kmメッシュ耕地土壌図を用い、土壌区分に基づき作図した。

3.成果の概要
1)銅:未耕地の可溶性、酸分解濃度の中央値は0.6、15mg/kg、同じく農耕地では1.6、24mg/kgであった(表1、2)。未耕地、農耕地ともに農用地土壌汚染防止法の可溶性銅濃度基準値125mg/kgを超える土壌は無く、未耕地土壌の45%が畑土壌の可溶性銅診断基準値0.5を下回った。未耕地の土壌区分間に有意差が認められたことから、土壌区分別の可溶性銅分布図を作成した(地図1)。
2)マンガン:未耕地の易還元性、酸分解マンガン濃度の中央値は89、450mg/kg、同じく農耕地では90、531mg/kgであった(表1、2)。未耕地では34%の土壌が、畑土壌の易還元性マンガン診断基準値50〜500mg/kgを外れた。また、土壌区分間に有意差が認められたことから、土壌区分別の易還元性マンガン分布図を作成した(地図2)。なお、易還元性と酸分解マンガンとの間には強い正の相関が認められた(r=0.916)。
3)カドミウム:未耕地の可溶性、酸分解濃度の中央値は0.05、0.07mg/kg、同じく農耕地では0.09、0.19mg/kgであった(表1、2)。
4)鉛:未耕地の可溶性、酸分解濃度の中央値は0.7、3.9mg/kg、同じく農耕地では0.7、3.7mg/kgであった(表1、2)。なお、未耕地において可溶性と酸分解鉛との間には高い正の相関が認められた(r=0.616)。
5)ヒ素:未耕地の可溶性、酸分解濃度の中央値は0.4、4.7mg/kg、同じく農耕地では0.8、8.6mg/kgであった(表1、2)。未耕地、農耕地ともに農用地土壌汚染防止法の可溶性ヒ素基準値の上限20mg/kgを超える土壌は無かった。
6)ニッケル:未耕地の交換性、酸分解濃度の中央値は0、8mg/kg、同じく農耕地では0、11mg/kgであった(表1、2)。交換性ニッケル濃度は未耕地、耕地とも検出限界未満の土壌が多く、畑土壌の診断基準値5mg/kgを超える土壌はなかった。
7)農耕地では、いずれの重金属類も負荷の傾向がみられた。とくに、樹園地では銅、マンガン、鉛、カドミウム、ヒ素の濃度が高く、これは各種資材投入の影響と推察された。
8)未耕地に比べ農耕地の濃度が高かった地点の割合は、交換性ニッケルを除くと、各重金属類とも地目全体で41〜71%であった(表3)。
9)以上から、北海道の農耕地における重金属類含量は、中央値で見る限り各種の基準値を満たしているものの、一部に営農の活動に起因した負荷が認められた。

   
    
                  表2 農耕地の地目別重金属類濃度中央値(mg/kg)
   
  

地図1 可溶性銅濃度分布図(未耕地)

地図2 易還元性マンガン濃度分布図(未耕地)


               表3 未耕地に比べ農耕地の濃度が高かった割合(%)
      

4.成果の活用面と留意点
1)農耕地および未耕地の重金属類含量を把握する基礎資料となる。
2)本成績では休廃止鉱山対策地域等、過去に土壌汚染が顕在化している地域は除外した。

5.残された問題とその対応
本成績は土壌の作土層相当の調査結果を基にしており、下層土については未検討である。