成績概要書(2008年1月作成)  
研究課題名:北海道東部の採草地における温室効果ガスの発生量評価と低減の可能性
(温室効果ガス測定・調査事業) (わが国とアジア諸国の農耕地から実効的CH4、N2Oソース制御技術の開発) (寒冷寡照条件の草地酪農地帯における畜産由来有機性資源の循環利用に伴う環境負荷物質の動態解明と環境負荷低減技術の開発)
担当部署:根釧農試研究部草地環境科    
予算区分:国費受託、民間受託、指定試験
研究期間:2004〜2007年度(平成16〜19年度)
1.目的 道東採草地で主な温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)、メタン、亜酸化窒素(N2O)収支と温室効果への影響を解析し、堆肥施用等による温室効果ガス低減可能性を検討した。
2.方法 
1)採草地におけるCO2、メタン、N2Oフラックスの解明
(1) CO2フラックス:渦相関法により純生態系生産量(NEP)を求めた。前年10月〜当年9月を一年度とした。根釧農試(1998年造成、混播)化学肥料標準施用区(化肥区)。
(2)メタン及びN2Oフラックス:クローズドチャンバー法。根釧農試、現地3カ所。
(3)温室効果ガス評価:CO2評価は純生物相生産量(NBP)を用いた。NBP=NEP-収穫物搬出量+有機物投入量。温室効果は地球温暖化指数(GWP)で評価した。GWP=-NBP×(44/12)×1+メタン発生量×(16/12)×23+N2O発生量×(44/28)×296
2)温室効果低減の可能性
(1)堆肥施用:根釧農試(1997年造成、混播)、牛糞バーク堆肥(38〜44Mg/ha)及び堆肥供給養分量を減じた化学肥料を施用(堆肥区)。調査項目は1)に同じ。
(2)窒素施用法:根釧農試(単播)2004〜2007年、別海2006年。処理:春重区(基肥:追肥、5:1)、追半区(追肥のみ半量)及び硝酸化成抑制剤(混入肥料3種、混合2種)。調査項目:N2Oフラックス、乾物収量及びDNDCモデルによるN2Oフラックス予測
3.成果の概要
1) 化肥区のNEPは2.67〜4.22MgC/ha/yrで(図1)、化学肥料で施肥管理された道東採草地のメタン及びN2O発生量は、各-1.00〜0.42kgC/ha/yr、0.29〜1.72 kgN/ha/yrであった。
2) 化肥区のNBPおよびGWPは年度により異なる反応を示した。GWPの3カ年平均値は1.1 MgCO2eq/ha/yrで、温室効果の促進または抑制に与える影響は小さかった(表1)。
3)堆肥区のNEPは1.27〜3.14 MgC/ha/yrで化肥区に比べ減少し(図1)、N2O発生量は0.63〜7.09 kgN/ha/yrで化肥区に比べ増加した。同区のNBPは3カ年平均で3.69 MgC/ha/yrと炭素蓄積が認められた(表1)。この結果、GWPは3カ年平均で-12.0MgCO2eq/ha/yrとなり(表1)、温室効果は少なくとも維持管理段階では抑制されると判定された。
4) 春重区は標肥区に比べ、N2O発生量を3カ年平均で36%低下、同じく硝酸化成抑制剤の利用は、標肥区またはスラリー区に比べ、22〜41%低下させた(図2)。この低減量はGWP換算で0.2MgCO2eq/ha/yrに相当した。これらの処理区の乾物生産量は標肥区またはスラリー区と同程度であった。
5) DNDCモデルによる亜酸化窒素フラックスおよび発生量予測は、年次により適合性は異なったが(図3)、窒素施肥法がN2O発生量に及ぼす影響は予測できる可能性が示唆された。
以上の結果、北海道東部の採草地では、化学肥料を単独施用した場合、温室効果の促進または抑制に与える影響は小さかった。一方、堆肥施用は温室効果ガスを増加させたが、炭素蓄積によって温室効果を抑制した。また、窒素施肥管理によるN2O発生量低減の可能性が示唆された。

吸収
 ↑
 ↓
放出

      表1 化肥区、堆肥区のNBP、メタンおよび亜酸化窒素発生量とGWP評価










積算値(kgN/ha)

予測値:0.45

実測値:0.31

積算値
(kgN/ha)

予測値:0.31

実測値:0.91

4.成果の活用面と留意点
国内草地の二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素の年間収支査定のための基礎資料となる。
5.残された問題点とその対応
1)草地の更新から経年化過程でのGWPの検討
2)施用堆肥の種類によるGWPへの影響
3)草地飼料畑の栽培管理・収穫・調製に係わる温室効果ガスのLCA評価
4)低亜酸化窒素放出型窒素施肥法の活用方法
5)DNDCモデルによる亜酸化窒素放出量予測の精度向上と面的予測