成績概要書(2008年1月作成)
課題ID:214-i-02-008
研究課題:堆肥施用畑における作物の窒素吸収・品質および土壌硝酸態窒素の簡易分析法
       (作物品質に対する有機物施用の影響解明と評価技術の開発)
担当部署:北海道農研・根圏域研究チーム
担当者名:建部雅子、岡﨑圭毅、岡 紀邦、唐澤敏彦
協力分担:水落勁美(北海道農研フェロー)
予算区分:基盤
研究期間:2005〜2007年度(平成17〜19年度)
1.目的
肥料窒素のみを施用した場合と比べて、堆肥を施用することが作物の窒素吸収および品質にどのような影響を与えるかを明らかにする。また、有機物施用土壌の経時的な窒素診断を可能にするため、飽水土壌溶液を用いた簡易な土壌NO3-Nの分析法を検討する。

2.方法
北農研下層台地多湿黒ボク土で、牛糞堆肥0, 2, 4 t / 10aを連用し、窒素施用量3段階(N 0, 6, 12 kg / 10a)でダイコンを、2段階(N 0, 12 kg / 10a)でスイートコーンを栽培した。供試堆肥は牛糞、稲わら主体でC/N比9.3〜10.4、無機態窒素38.5〜102.5 mg/100gである。土壌は検土杖を用いて15 cmの深さで畦間から採取した。生土のKCl抽出液と飽水土壌溶液の無機態窒素をオートアナライザーで測定した。RQ flex法等の簡易測定法も試みた。

3.成果の概要
 1) 堆肥の影響
(1) 裸地土壌のNO3-Nは0t N0区で播種期以降緩やかに上昇し、6月中旬から収穫期まで平均1.5 mg/乾土100gで推移した。4t N0区で平均2.2 mg、0t N12区(基肥5+追肥7)で平均4.0 mg/乾土100gと、施肥による上昇が大きかった。一方、栽培土壌のNO3-Nは、作物による吸収にともない次第に低下し、収穫期には0.6 mg/乾土100g以下となった(図1)。
(2) 堆肥施用から収穫までの土壌NO3-Nの日平均値が高いほど窒素吸収量が高まることから、スイートコーンの窒素吸収は堆肥施用、無施用に係わらず基本的には土壌中に放出されたNO3-N量によって決まるものと思われる(図2)。
(3) 窒素吸収量の増加にともない収量は増加し、糖含有率およびアスコルビン酸含有率は低下した。これらの含有率は堆肥施用、窒素施肥にかかわらず作物が吸収した窒素量によってほぼ決まるが(図3)、堆肥の施用が生育の進み具合に影響を与え、乾物率等を介して品質に影響し、堆肥施用で含有率がやや低下する場合が見られた(図4)。
(4) 以上より、堆肥施用、無施用にかかわらず作物が吸収する窒素の主体は土壌中で無機化された窒素であり、糖などの品質成分含有率は窒素吸収量に応じてほぼ決まると考えられる。
2) 飽水土壌溶液を用いた土壌NO3-Nの分析法
(1) 飽水土壌とは土に水を加えつつ捏ねていき、土が光を反射して光沢を持つ点まで加水した状態をいう。ポリ袋に生土約70 gを取り飽水状態まで水を加えて捏ねた後、セラミック管と注射筒を用いて土壌溶液を吸引、採取した(図5)。これは秤やその他の実験器具を用いない現場対応型の試料採取法である。
(2) 飽水土壌溶液のNO3-N濃度は、KCl抽出による土壌NO3-N濃度との間に、作物の生育期間、年次に係わらず高い相関関係があり(図6)、それは褐色低地土でやや異なるものの多湿黒ボク土、灰色台地土で同じであった。また、測定にRQ flexが利用できた。
(3) 以上より、飽水土壌溶液の採取により、土壌の水分を考慮することなく、現場で簡易に土壌NO3-N濃度の測定が可能であり、図6の式により乾土100g当りmgに変換できる。本法は、多湿黒ボク土、褐色低地土、灰色台地土に適用でき、飽水土壌にしたときの含水比は0.5〜0.6である。
    
 図5 飽水土壌の調製と溶液採種の手順


    
                  
4.成果の活用面と留意点
1) 飽水土壌溶液法は、現場に適用可能な土壌NO3-Nの簡易分析法として、畑地土壌における窒素無機化の追跡に利用できる。
2) 現場での利用に当たっては、同じ基準で飽水土壌を作成するために事前のトレーニングが必要である。

5.残された問題とその対応
 飽水土壌溶液法について、供試した3土壌以外の土壌への適応性を検討する必要がある。