成績概要書(2008年1月作成)
研究課題:土壌診断のための簡易分析法 −pH、N、P2O5、SiO2、Cu、Zn、B、Fe2O3−
       (土壌養分の簡易分析法の確立)
担当部署:中央農試 生産環境部 栽培環境科、上川農試 研究部 栽培環境科
協力分担:なし
予算区分:受託(民間)
研究期間:2006〜2007年度(平成18〜19年度)
1.目 的
 土壌診断の一層の普及・利用の促進を図るため、土壌分析における抽出法、定量法を検討し、現法による分析値へ読み替え可能な簡易分析法を確立する。

2.方 法
1)pH:EC測定液との共用。現法;土液比1:2.5、1時間静置、簡易法;同1:5、1時間振とう。
2)可給態りん酸(P2O5):地目間で異なる抽出法をトルオーグ法へ統一。トルオーグ法とブレイNO.2法(1:10、1:20抽出)の分析値の読み替え。
3)可溶性銅(Cu)、亜鉛(Zn):0.1N 塩酸抽出液温度の変更。現法;30℃抽出、簡易法;室温  (15〜30℃)抽出。
4)遊離酸化鉄(Fe2O3):現法(浅見・熊田法)から抽出、定量が簡便なジチオナイト−クエン酸塩還元法への変更。
5)水田土壌の可給態窒素(N):可給態ケイ酸分析との共用を図るために、培養窒素の土壌採取量の減量。現法;15g、簡易法;10g。 
6)可給態ケイ酸(SiO2):上記5)培養窒素上澄み液での測定。現法;土液比1:6、簡易法;培養窒素の上澄み液(土液比1:2)。
7)熱水可溶性ホウ素(B):現法(クルクミンシュウ酸法)から簡易なアゾメチンH法への変更。
8)熱水抽出性窒素(N):簡易法(280nm吸光法)の火山性土への適用。

3.成果の概要
1)pHおよび遊離Fe2O3では、土壌診断基準値付近における分析法間の差はそれぞれ0.07ポイント、0.02%と極めて小さく(図1、2)、実用的には問題なかった。したがって、簡易法の分析値はそのまま現法へ適用できる。さらに、遊離Fe2O3の簡易法では抽出容器のスケールダウン(250→100mL)や静置時間の短縮(48時間→2時間以上)も可能である。
2)可給態P2O5は、診断基準や施肥対応で用いる範囲では適応性が高いため、トルオーグ法へ統一できる(図3)。なお、分析法間の読み替え式は「土壌および作物栄養の診断基準−分析法(改訂版)−(1992)」に示されている式を活用できる。
3)可溶性Cu、Znは、抽出温度が低くなるに従って、分析値が低下するため、抽出温度別の補正係数を用いて補正する(表1)。
4)水田土壌の可給態Nおよび可給態SiO2では培養条件を共通化でき、その効率的な測定スキームを提案した。培養は、土壌10gに対して水20mLで行い、可給態Nはこの条件の分析値をそのまま現法へ適用できる(図4)。一方、土壌中の可給態SiO2(mg/100g)は、培養窒素の上澄みSi濃度(ppm)から変換する。
5)熱水可溶性Bの定量法は、土壌中の共存成分とくに硝酸の影響が少ないこと、分析操作が簡便であることから、アゾメチンH法を北海道の公定法とする(図5)。
6)熱水抽出性Nの簡易法は火山性土へも適用できるが、腐植含量により読み替え式は異なる。
7)以上の結果をまとめて、現法からの変更点および読み替え式を表2に示した。

  




4.成果の活用面と留意点
1)本成果は、多点数の土壌を迅速に診断する必要のある営農指導機関等の分析で活用する。
2)可給態P2O5のトルオーグ法からブレイNo.2法への分析値の読み替えにおける、減増肥の施肥対応区分への適合率は68〜84%である。
3)可溶性Cuは2ppm以下の推定値の振れが大きく、その傾向は抽出液温度が低いほど顕著であるため、診断基準の下限値(0.5ppm)付近を精度よく求める場合は、現法で行う。
4)熱水可溶性BのアゾメチンH法では、分析法に従って、脱色を十分行ってから定量する。
5)熱水抽出性Nが実用域内(0〜12mg/100g)で簡易法と常法との差が±2mg/100g以内と なる割合は鉱質土壌で約90%、火山性土で約70%である。
5.残された問題点とその対応
1)Cu 2ppm以下の土壌で推定値の振れが大きくなる要因の解明