成績概要書(2008年1月作成) 
研究課題:種ばれいしょ栽培における生育調節剤による茎葉処理とウイルス感染
       (種馬鈴しょのウイルス感染に対する茎葉処理剤の効果解明)
担当部署:中央農業試験場 環境保全部 クリーン農業科
        基盤研究部 遺伝子工学科
予算区分:民間受託
研究期間:2003〜2006年度(平成15〜18年度)
1.目的
 健全な種ばれいしょを生産する上で、ウイルス感染防止対策が非常に重要である。生育調節剤による茎葉の除去(以下、茎葉処理)は種いもの大きさをコントロールするなど栽培上の理由だけでなく、アブラムシ類有翅虫によるウイルス感染防止のためにも実施されてきた。近年新規の生育調節剤が登録されたが、ウイルス感染防止に関する試験は実施されておらず、茎葉処理後に枯れ残りや再生が認められた場合のウイルス感染についても検討されていない。本課題では、枯凋進展の異なる2種類の生育調節剤を施用した圃場のウイルス感染率を調査するとともに、茎葉処理後に枯れ残りや再生が認められた場合のウイルス感染の可能性を接種試験で検討する。
2.方法
1)圃場試験(平成16〜18年)
試験場所:中央農試圃場、供試品種:「男爵薯」、「農林1号」、5月上中旬植え付け
処理方法:①ジクワット(D)液剤処理、②ピラフルフェンエチル(P)乳剤処理、③無処理茎葉処理時期及び処理量:茎葉繁茂期(「男爵薯」8月上旬、「農林1号」8月中旬)
   2回処理、D液剤300ml/10a、P乳剤450ml/10a、散布水量は100L/10a。
ウイルス保毒源設置方法:試験圃場から20〜80m離れた場所に2種ウイルス病(葉巻病(PLRV)、ジャガイモYモザイク病(PVY))の保毒いもを0.5aずつ5月中下旬に植え付けた。
殺虫剤は無散布である。
殺虫剤施用:植え付け時にチアメトキサム粒剤を4kg/10a、6月上旬以降茎葉処理まで7〜10日間隔で茎葉散布を実施(「男爵薯」で7〜8回、「農林1号」で8〜11回散布)。
調査内容
①アブラムシ類有翅虫の飛来状況(黄色水盤、圃場内調査)
ジャガイモヒゲナガアブラムシ、チューリップヒゲナガアブラムシ(PLRV媒介)、モモアカアブラムシ(PLRV及びPVY媒介)、ワタアブラムシ(PVY媒介)
②次代塊茎ウイルス感染率調査(エライザ法)
③茎葉処理後のばれいしょの枯凋状況
2)茎葉処理前後の保毒虫接種によるウイルス感染試験(平成16、17年)
接種方法:平成16、17年はPLRV罹病株で飼育したモモアカアブラムシ(以下、保毒虫)約10頭/株を茎葉に接種し、1㎜メッシュ防虫ネットで覆った。茎葉処理1週間後は、無処理区以外枯れ残りや再生した茎葉に接種した。
接種時期:茎葉処理1週間前、翌日、1週間後。接種株数は20株。
3.成果の概要
1)PLRVを媒介するアブラムシ類有翅虫の大多数は茎葉処理以前に飛来しており、PVYを媒介するアブラムシ類有翅虫は茎葉処理以前から茎葉処理後まで飛来が確認された(図1)。
道央地域では、PLRVは主に茎葉処理以前に感染し、PVYは生育期全般にわたり感染する可能性がある。
2)ウイルス保毒源を設置した圃場試験では、アブラムシ類に対する薬剤防除と茎葉処理だけではウイルス感染を完全に防止することは困難であった(表1)。このことから、種ばれいしょ栽培では、ウイルス感染防止対策ためには保毒源の除去又は保毒源からの分離が最重要である。
3)圃場試験では、2種類の生育調節剤とも次代塊茎へのウイルス感染が認められ、両剤間で感染率に差が認められなかった(表1)。茎葉処理後、枯凋途中及び枯れ残りや再生した茎葉に保毒虫を接種した場合も、両剤とも次代塊茎にウイルス感染が認められた(表2、3)。これらのことから、両剤のウイルス感染防止効果に差はないと考えられた。
4)茎葉処理後に枯れ残りや再生が生じる場合は、ウイルス感染が生じる可能性があるため、枯れ残りや再生が少なくなるよう努める。  

  

  

4.成果の活用面と留意点
1)種ばれいしょ栽培では、ウイルス保毒源の除去、一般栽培のばれいしょ圃場等ウイルス保毒の可能性がある作物からの分離、アブラムシ類への薬剤防除の徹底等を実施する。
2)茎葉処理を行う場合は、平成16年度普及推進事項「種ばれいしょ生産における茎葉チョッパと生育調節剤による茎葉処理技術」(十勝農試)及び平成18年度普及推進事項「ばれいしょ栽培における茎葉処理機の効果的利用法」(十勝農試)等を参考にして速やかに枯凋させかつ枯れ残りや再生を少なくするよう努める。

5.残された問題とその対応