成績概要書(2008年1月作成)
課題分類:
研究課題:生産履歴、生産資材情報を電子化管理するシステム
担当部署:農研機構・北海道農研・生産支援システム研究北海道サブチーム
担当者名:伊藤淳士・村上則幸・喜多孝一
協力分担:
予算区分:交付金
研究期間:2006〜2007年度(平成18〜19年度)
1.目的
 食の安全性への関心の高まりから、生産現場においては厳密な生産工程の管理を行なうために、JA等が中心となり生産履歴の記帳およびそれらの検査を行うことが一般的になってきている。しかし、それらの業務が生産現場の大きな負担となってきている。
 そこで、肥料、農薬等の生産資材情報や生産履歴情報を電子化し効率的な管理を行なうシステムの開発を行なう。

2.方法
1) 農薬、肥料等の生産資材情報のデータベース化を行なう。農薬データは、社団法人日本植物防疫協会JPP-NETの提供する農薬データベースを再構築して整備する。肥料データは、本システム利用者を中心にデータの収集・蓄積を行なう。
2) 生産履歴を電子化し効率的に管理できるシステムを開発する。ITが不慣れな利用者に考慮して、手書き帳票をスキャナおよびOCRソフトウェアにより電子化する方法を採用する。電子化した情報は、ウェブサーバ上のデータベースで一元管理を行ない、利用者はウェブブラウザを用いることで、生産履歴の閲覧・編集等の作業が行えるシステムを構築する。
3) 電子化した生産履歴のうち、肥料、農薬に関するデータの分析を行なうシステムを開発する。肥料については、成分ごとの集計を行えるものとする。農薬については、農薬取締法における基準に対する適否判断および、YES!clean栽培における農薬使用計画に対する適否判断を行なうことができるものとする。
4) 本システムを、北海道内の4JA(組合員数は合計約4,000名)にてシステムの実用性を検証する。

3.成果の概要
1) 本システムは、生産資材、生産履歴に関する情報を電子化し、サーバ上のデータベースに情報蓄積する。それらの情報はインターネットを介して管理ができる(図1)。生産履歴情報は、手書き帳票をスキャナ、OCRソフトウェアを用いて電子化を行ない、その後データベースへ格納する。スキャンからデータベースに格納までに要する時間は帳票1枚(両面)あたり1〜2分であった。
2) 農薬は、すべての農薬を対象としたデータの利用が可能となった。肥料は、平成19年11月現在、約1,000件の資材についての情報を収集でき、それらの情報をウェブブラウザ上で検索、閲覧するシステムを開発した(図2)。
3) 肥料については、2)で収集したデータにより、各生産履歴における肥料成分ごとの総施用量の把握が可能となった。農薬については、使用回数や倍率等の登録基準内の使用であったかを自動的に判断するシステムを開発した。また、YES!clean栽培の農薬使用計画に基づいた使用であるかを自動的に判断するシステムを開発した(図3)。なお、これらのシステムは、すべてウェブブラウザ上で使用することができる。
4) 3年間の4JAでの稼働では、システムが問題なく稼働することを確認した。


  図1 システム構成図


図2 肥料情報の検索、閲覧
  
        図3 YES!clean栽培における農薬使用計画と履歴の照合    

4.成果の活用面と留意点
1) JA等の生産者団体における生産履歴、生産資材情報の管理に活用できる。
2) 本システムは、ウェブサーバの使用を前提としている。システム利用に当たっては、セキュリティ等を確保してウェブサーバを運用できるノウハウが必須である。
3) 本システムは、生産資材の使用履歴の適否判断等を行なうことができるが、生産履歴の内容を保証するものではない。
4) 本システムは、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の知的財産データベースに「生産資材、生産履歴マネージメントシステム」として登録されている。利用には、当機構への利用許諾申請が必要である。また、JPP-NETとは別途契約が必要。
5.残された問題とその対応
1) 肥料データベースについては、利用場面によってはデータ内容に不足が生じる可能性がある。今後にむけて、データ整備の方法を検討していく。
2) 本システムは、すべての生産者の履歴を電子化する必要性から、手書き帳票による電子化手法を用いたが、ITを十分に活用できる生産者からはPC等のメディアを活用した記帳方法の導入を要望されている。今後、開発を行ないたい。