成績概要書(2008年1月作成)
米粒タンパク質含有率の低減化を図るため,砂質客土材を作土下に埋設する新たな土層改良「砂質客土埋設工法」を開発し,泥炭土水田で良食味米を安定的に生産できる基盤整備方法を提案する。 2.方法 1)砂質客土材の埋設が水稲の生育収量、品質に及ぼす影響(解析試験) 試験ほ場:中央農業試験場岩見沢試験地 試験処理:品種「きらら397」,成苗ポット苗,手作業で表土を削剥し15cm深と25cm深に客土厚さ10cmで埋設した処理区,無処理の対照区(10m2/区)を2005年に設置。 2)施工方法の検討および施工効果 (1)表土削剥後埋設 試験ほ場:南幌町,深川市 試験処理:品種「きらら397」,中苗マット苗,南幌町ほ場は2004年区画整理の表土扱い時に,表土25cmを削剥し客土厚さ10cmで埋設。また地耐力向上の目的で1994年に砂質客土材を20cm深に厚さ15cmで埋設した深川市ほ場で施工効果の持続性について調査。 (2)プラウ反転埋設 試験ほ場:新篠津村 試験処理:品種「きらら397」,中苗マット苗,2005年に表土上に砂質客土材10cmをレーザーレベラーにて整地後北海道農業開発公社製22インチ3連プラウにて35〜40cm反転。 3.成果の概要 1)泥炭土水田において砂質客土材を作土下に埋設することにより,米粒タンパク質含有率の低減効果が認められた。これは埋設した客土層により水稲根域を制限し,下層泥炭からの窒素吸収を抑制することで,出穂期以降の窒素吸収量が低下するためと考えられた(図1,表1,表2)。客土材の埋設深については,15cm深で生育収量の低下がみられたことから25cmが妥当と考えられた。 2)施工方法の検討として,表土削剥後埋設により施工したほ場では,透水性が良好で堅密な客土層が安定的に形成されていた(図2)。また,出穂期以降の窒素吸収量が低下し,米粒タンパク質含有率が3カ年平均で対照区に比べ0.7%低下した。さらに施工後14年経過後のほ場においても,明らかな米粒タンパク質含有率の低下が認められたことから,表土削剥後埋設により施工したほ場での米粒タンパク質含有率の低減効果は,長期間における安定的な効果が期待できる(表3,表4)。 3)プラウ反転埋設により施工したほ場では施工後の客土層厚が不均一で(図2),米粒タンパク質含有率の低減効果は判然としなかった。これは施工時における泥炭の作土への混入や,客土層の不均一な分布によるものと思われた(データ省略)。 4)以上のことから,砂質客土埋設工法の施工条件をまとめて示した(表5)。適用ほ場は米粒タンパク質含有率が高まる傾向にある泥炭土水田とし,施工方法は表土を削剥して砂質客土材を敷き均し,表土を戻す方法が適する。客土厚については根の伸長およびコスト面から考慮して5〜10cmとする。
4.成果の活用面と留意点 1)本工法の施工ほ場では客土層により根域を制限しているため,干ばつの影響を受けやすい。そのため早期落水を避け,登熟期間の土壌水分を適正に維持する。 2)心土破砕の施工は極力避け,排水対策は暗渠排水と溝切り等で対応する。 3)窒素供給力が低いほ場では肥料切れをおこさないよう施肥設計に留意する。 4)本工法については土地改良事業での活用が期待できる。 5)畑利用の為に埋設した客土層を撹拌した場合,水稲作付時のタンパク質含有率低減効果は消失する。 5.残された問題とその対応 1)低コストな施工方法の開発 |