成績概要書(2008年1月作成)
 課題分類:
 研究課題:ジャガイモYウイルスに対するモノクローナル抗体の作製と高精度検出法
       (ジャガイモ病害虫の簡易検出・高精度診断技術の開発
        2) 生産現場で利用可能な簡易検出システムの開発)
 担当部署:中央農業試験場 基盤研究部 遺伝子工学科
 予算区分:外部資金(高度化)
 研究期間:2005〜2007年度(平成17〜19年度)
1.目的
ELISA法等の血清学的診断法は、簡便で現場に普及している技術であるが、高品質の抗体を必要とする。そこで、ウイルス精製を経ずして高品質な抗原を大量に得るために、ウイルス外被タンパク質(CP)をin vitro で大腸菌に発現させ、これを免疫して抗体を作製し、ELISA法の検出法を確立する。ウイルスは、生産現場での発生が最も多く、ニーズが高いジャガイモYウイルスN系統(PVY-N)を対象とする。

2.方法
1)大腸菌発現系を用いたPVY-N-CP抗原の作製とその免疫による抗体の作製
  PVY-NのKi株CP遺伝子をpMAL発現ベクターのマルトース結合タンパク質(MBP2)下流に導入して、形質転換させ、CP遺伝子が挿入された大腸菌クローンを作製した。これをタンパク質発現誘導をして精製し、さらにMBP2を酵素で切断・精製し、PVY-N-CPを作製した。これを常法で免疫してポリクローナル(Poly)およびモノクローナル(Mono)抗体を作製した。
2)モノクローナル抗体等を用いた検出法の検討
  作製抗体の各種ELISA法(PTA,DAS,TAS)への適応性を試験した。また、その精度を市販抗体と比較した。新たに簡易ELISA法(抗原吸着が37℃で60分、Mono抗体のエンザイムコンジュゲート(1,000倍希釈)反応が37℃で60分)を開発し、その精度を検討した。

3.成果の概要
1)大腸菌発現系でPVY-N-CPを発現させることができた。これを精製して、高純度の抗原タンパク質を作製することができた(図1)。
2)PVY-N-CPを免疫して、PVYの両系統に反応するPoly抗体およびPVY-N系統に特異的なMono抗体(図2)を作製できた。
3)Mono抗体はいずれのELISA法(PTA,DAS,TAS)にも対応し、抗原も10,000倍〜100,000倍希釈まで検出でき、適応性・精度に優れた。
4)DAS−ELISA法においてMono抗体のエンザイムコンジュゲートは希釈倍率を10,000倍にしても高感度に検出でき、抗体価が極めて高かった(表1)。比較した市販抗体4種では抗原の1,000倍〜100,000倍希釈までの精度で検出できたが、このうち、国内A抗体では健全葉でも吸光値が上昇し、精度が劣った。
5)Mono抗体を用いたDAS-ELISA法(ここではPoly/Monoの組合せ)で一般圃場から採取した馬鈴しょサンプルでも陽性株を高精度に検出でき、実用性が認められた。
6)作製した高精度Mono抗体による簡易ELISA検出法を開発した。本法で、抗原が10,000倍希釈までの高精度で検出ができる(図3)。一般的なELISA法ではそれぞれ、ほぼ24時間以上を要するが、簡易ELISAでは3時間半程度で精度よく検出でき、所要時間が大幅に短縮された(図4)。この方法で、緊急を要するPVY-Nの診断に即日で対応が可能である。




4.成果の活用面と留意点
1)作製したモノクローナル抗体は馬鈴しょの育種や種いも生産に関わるウイルス検定を実施している機関およびウイルス診断が実施できる機関(普及センター、団体等)で広く活用できる。抗体は道立中央農業試験場における抗体提供規定に基づき、配布可能である。
2)モノクローナル抗体はロットによる品質に差が生じない。

5.残された問題とその対応
1)抗体を用いた他検出手法(イムノクロマト法など)への応用
2)馬鈴しょの各種ウイルスに対する高品質抗体の作製