【指導奨励上参考資すべき事項】
水稲苗代様式に関する試験成績

北海道農業試験場

 

 昭和24、25年度の試験成績によれば、各種苗代様式間には下記の様な特質が認められるが、その中紙被覆陸苗代及び紙被覆折衷苗代(畑式整地)は従来の冷床苗代及び被覆折衷苗代に較べると、春季低温年には苗の生育が稍々遅延する傾向があるが、資材労力が節減され而も健苗を養成し易いので、現在の水苗代及び直播の一部の代わりとして、又温冷床苗代新設の場合及び温冷床苗代の播種量を適正に保つために生ずる苗代面積の不足を補う場合等に奨励して差し支えないものと認める。但し寒冷地帯(特に北見地方)に於いては未だ十分の試験成績がないので、今後の検討によって奨励態度を定めるのが妥当と考える。

 次に各種苗代様式の特質を述べると

 1 障子被覆のものと紙被覆のものを比較すると、後者は前者に比して一日の最高温度は高いが最低温度が低く、温度較差が大きい。従って発芽は春季高温の場合は紙被覆のものが
   速やかであるが低温の場合は遅い傾向がある。
 2 苗の草丈は、紙被覆のものは障子被覆に較べて一般的には低いがー(勿論管理の如何によるが)ー葉数では差がなく、概して苗が堅く健苗である。
 3 陸苗代、折衷苗代(畑式整地)保温折衷苗代(煉床式)及び水苗代の床土状態の各様式間の差異は、陸苗代及び折衷苗代(畑式)が生育強健で、所謂健苗の様相を呈し、水苗代様式
   に近いもの程苗は徒長の傾向があった。従って移植後の活着も陸苗代様式、或いは畑式折衷苗代のものが良好であった。
 4 根相は畑地状態のもの程根は太く、根数多く又毛根も多い。
 5 寒地稲作の立場及び苗代整地労力等を勘案すれば、床土の様式としては陸苗代或いは折衷苗代(畑式整地)が得策と考える。即ち北海道の場合は、府県で最近問題になっている保
  温折衷苗代(煉床式)よりも紙被覆陸苗代或いは紙被覆折衷苗代(畑地整地)が適している。
 6 紙被覆苗代管理上の注意事項
  (1) 被覆期間の温度の過度の上昇の防止。
  (2) 被覆紙除去期は二葉樹期を標準とするがよいと考えるが、天候によって多少伸縮すること。
  (3) 被覆紙除去後の寒気(特に晩霜)に対する保護を考えること。
    尚この事項は折衷苗代に於いては灌水することにより湛水することにより容易に避け得る。
  (4) 床上培養の重要性は温冷床苗代の場合と同様である。

 ・ 昭和24年度試験成績
       調査事項
栽培法
播種期
(月日)
発芽期
(月日)
発芽
日数(日)
苗立
歩合(%)
紙被覆
日数(日)
苗代
日数(日)
移植期
(月日)
草丈
(cm)
葉数
(枚)
抽葉長
(cm)
第一
鞘高
(cm)
健苗
歩合(%)
植傷み 出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
玄米
重量(貫)
玄米
容量(石)
収量
割合(%)
1. 冷床苗栽培 4.26 5.2 8 85.7 - 35 5.31 14.1 3.2 23.1 3.2 81.8 ナシ 8.12 10.11 128.8 3.31 100.0
2. 紙被覆陸苗栽培 4.26 5.3 7 86.7 22 35 5.31 14.0 3.9 26.3 3.0 82.5 8.11 10.12 129.4 3.31 100.5
3. 無蓋陸病栽培 4.26 5.11 15 48.2 - 43 6.8 8.6 3.2 13.9 2.2 45.7 ナシ 8.14 10.16 125.3 3.16 97.3
4. 被覆折衷苗栽培 4.26 5.5 9 84.3 - 39 6.4 12.0 3.1 20.3 3.4 79.6 ナシ 8.12 10.12 124.0 3.19 96.3
5. 紙被覆折衷苗栽培 4.26 5.3 7 81.8 22 35 5.31 15.7 3.6 27.6 3.3 77.5 8.11 10.9 120.3 3.08 93.4
6. 無蓋折衷苗栽培 4.26 5.11 15 68.6 - 43 6.8 10.8 3.5 19.5 2.4 65.7 ナシ 8.15 10.15 121.7 3.11 94.5
 備考 1. 供試品種は中生栄光
     2. 苗代は一坪二区制本田は五坪二区制とした。
     3. 各栽培法共二本植、畦巾一尺×株間四寸(90株)
     4. 調査個体数はすべて50個体
     5. 被覆紙除去当時の調査日は5月1日

 ・ 昭和25年度試験成績
       調査事項
栽培法
播種期
(月日)
発芽期
(月日)
発芽
日数(日)
苗立
歩合(%)
紙被覆
日数(日)
苗代
日数(日)
移植期
(月日)
移植時 出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
玄米
重量(貫)
玄米
容量(石)
収量
割合(%)
草丈
(cm)
葉数
(枚)
抽葉長
(cm)
第一
鞘高
(cm)
1. 冷床苗栽培 4.20 4.24 4 90.7 - 42 6.1 11.3 4.5 34.1 3.1 8.2 9.16 117.3 2.89 100.0
2. 紙被覆陸苗栽培 4.20 4.26 8 83.6 21 42 6.1 14.8 5.0 38.7 3.0 8.3 9.17 115.8 2.86 98.9
3. 無蓋陸病栽培 5.4 5.11 10 81.4 - 40 6.14 12.0 4.0 23.5 2.6 8.9 9.19 121.4 2.98 103.5
4. 被覆折衷苗栽培 4.20 4.25 6 90.0 - 40 5.30 13.8 4.5 36.2 2.5 8.2 9.16 117.9 2.90 100.3
5. 紙被覆折衷苗栽培 4.20 4.27 8 77.8 21 40 5.30 13.4 5.0 35.5 2.8 8.2 9.17 115.7 2.85 98.6
6. 無蓋折衷苗栽培 5.4 5.10 8 83.6 - 41 6.14 13.0 4.0 25.9 3.0 8.8 9.19 118.2 2.90 100.3
7. 被覆水苗栽培 5.1 5.3 3 83.6 - 35 6.5 14.7 5.0 28.5 3.0 8.5 9.18 119.0 2.93 101.3
8. 保温折衷苗栽培 5.1 5.3 3 91.4 15 35 6.3 13.1 4.5 38.3 4.6 8.4 9.18 115.5 2.84 98.2
9. 普通苗栽培 5.4 5.7 4 84.3 - 36 6.9 11.9 4.0 21.7 2.1 8.6 9.19 118.8 2.90 100.3
10. 保温折衷苗栽培 5.1 - - - - - - - - - - 8.4 9.18 122.6 3.00 103.8
11. 普通作苗栽培 5.4 - - - - - - - - - - 8.8 9.21 116.0 2.85 98.6
12. 直播栽培 5.12 5.17 6 - - - - - - - - 8.5 9.17 118.3 2.90 100.3
 備考 1. 供試品種は中生栄光
     2. 苗代は二坪一区制、本田は2.5坪四区制で任意配列法によった。
     3. 表中の10並びに11区は5本植とし、他の栽培法は直播栽培を除きすべて2本植とした。
     4. 移植時の苗の調査個体数は300個体で数値はその平均値である。